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[オピニオン]鄭芝溶の詩語

Posted April. 23, 2003 22:13,   

鄭芝溶(チョン・ジヨン、1902〜?)詩人がいつか「なぜ散文や小説は書かないのか」という質問を受けて、彼は次のように応えた。「私は長い文はうまく書けない。それは天から下された人だけが書けるものだ」と。だが、詩においては彼は間違いなく「天から下された人」と呼ぶに値する。韓国の詩史の中で、彼ほど郷土的で泥臭い言語をうまく使いこなした詩人は希だ。彼が使った詩語はまさしく言い得て妙であり、繊細で感覚的な言葉の駆使には驚きを禁じ得ない。

◆彼が「言語の魔術師」という呼び名を得るようになったのは、代表作の「郷愁」が発表されてからのことだ。「昔話を語り続ける小川がくねくねと流れ/しましまの黄牛(あめうし)が/ゆっくりともの哀しくけだるく鳴く所・・・」。「くねくねと」、「もの哀しく」などの情緒あふれる言葉が、あたかも手に取るように鮮やかなイメージを作り出している。その後続いて発表された詩には、辞書にもない繊細な新造語が登場する。当時、彼は門人に「玉の疵や美人の額の吹き出物一つぐらいどうということはないが、叙情詩にそぐわない言葉が一つでも出てくるのは許せない」と語っていた。彼のこうした詩的な完璧への追求は、柳致環(ユ・チファン)、朴斗鎭(パク・トゥジン)、朴木月(パク・モグォル)、趙芝靛(チョ・ジフン)など他の詩人に多くの影響を及ぼしたと、文学評論家は評している。

◆今回、高麗(コリョ)大学の崔東鎬(チェ・ドンホ)教授が「文学思想」5月号に発表した「鄭芝溶の詩語の多様性と統計的な特徴」という論文は、言語の彫琢に細心な工夫をした彼の努力を具体的かつ実証的に見せている。この論文によると、彼の詩132編に使われた語彙は計8975個。身体語、感覚語、感情語、動物語など、彼が掘り出した詩語がどれほど多様で豊かだったかを改めて確認させてくれる。崔教授は中でも、感情語に「鳴く」「悲しい」が多いのは、 鄭芝溶の詩の基本的な情緒が「悲しさ」だからだと分析した。

◆詩に表現された悲しみは結局、彼の運命に対する予告編だったのだろうか。彼の詩語は豊かだったが、人生は決して幸福なものではなかった。朝鮮戦争前後の混乱期に「北入り」という紐を付けて行方を暗まし、40年経った今「拉致」と認められて文学的な復権がなされた。だが、彼がいつどのように人生を終えたのか、誰も正確には知らない。残された息子と娘たちは今も南北に分かれて暮らす苦痛に悩まされている。だが、彼が残していった数多くの詩語は韓国の文学的財産を豊かなものにした。それにさらに磨きをかけて輝かすのが、民族の大詩人に対する子孫の礼儀というものだろう。

宋煐彦(ソン・ヨンオン)論説委員 youngeon@donga.com