「Who Cares Wins」ＡＩ業界に必要な原則

最近、オープンＡＩをめぐるドラマは、企業は常に利益を優先するという点、企業が「自主規制する」という言葉は信じられないという点を再確認させた。ＡＩ開発主義に傾倒したサム・アルトマン最高経営責任者（ＣＥＯ）をオープンＡＩの取締役会は危険だと考え、彼に解任を通告した。しかし、従業員の激しい反発に直面し、解任を撤回した。

取締役会がアルトマン氏を追い出そうとした理由は、彼が「Ｑ*（キュースター）」という新しいＡＩモデルを作ったからだという。海外メディアによると、Ｑ*は小学校レベルの数学問題を解くことができる「汎用人工知能（ＡＧＩ）」への突破口とみられている。

汎用人工知能、人間の基本知能に匹敵するような優れた人工知能を開発した会社は、きっと大儲けするだろう。機械の業務処理能力が人間と似たレベルで、コストまで安くなれば、誰もが人間の代わりに機械を使おうとするだろう。その反面、人間が仕事を失い、ＡＩに対する統制力を失う状況を懸念して、強力な規制が必要だという声もある。

しかし、すでに競争に火がついた状況で、規制だけが有効かどうかは疑問だ。規制に足を引っ張られて公正な競争ができないという後発企業の不満はどうすればいいのか。

複数の企業が様々な商品やサービスを出すよう開発競争をさせ、消費者の選択を可能にすることが、むしろテック企業を正しい方向に導く方法になるのではないだろうか。

ＡＩのような技術は、より多くの人が使えば使うほど強力になる。このような要因が技術に対する抑止力として機能するのだ。多くの人に利益が還元されるよう設計されたＡＩソリューションがより多くのユーザーを確保する経営環境が整えば、社会の持続可能性を考慮しない会社は市場で立ち行かなくなるだろう。

地球温暖化の懸念が世界を沸かした２００４年、国連グローバル・コンパクト（UN Global Compact）は、「思いやりのある者が勝利する（Who cares wins: Connecting Financial Markets to a Changing World）」というタイトルの報告書を発表した。「ＥＳＧ」の概念が初めて提示されたこのレポートには、企業が持続可能な成長を望むなら、必ず環境にやさしい経営と社会的責任経営、透明なガバナンス確保に配慮しなければならないという主張が盛り込まれている。

「株主利益の最大化」が至上課題だった当時、このような主張は過度に理想的だと言われた。しかし、経営陣のパワハラ、労働組合弾圧、環境破壊企業に対する不買運動で会社が揺らぐほどになって、企業はＥＳＧを気にせずにはいられなかった。今、ＥＳＧは企業経営で必ず順守すべき一つの大原則として定着している。

米国の科学技術専門誌「ワイヤード」の創刊者で「シリコンバレーの教祖」と呼ばれるケヴィン・ケリーは著書『５千日後の世界』に、「テクノロジーには良い面が５１％、悪い面が４９％潜在している」とし、「今はこの差が大きくないように見えても、時間が経てば大きく異なる結果をもたらす」と書いた。技術をわずか１～２％でも良い方向に使おうとする企業が成果を出せるシステムが整えば、人類は破滅せずに繁栄を享受できるという意味だ。