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父と猫

Posted May. 17, 2023 08:15,   

Updated May. 17, 2023 08:15

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小学生だった彼は、猫を入れたかごを抱いて、父親が運転する自転車の後ろに乗っていた。彼らは2キロほど離れた海辺に、猫を捨てに行く途中だった。20世紀半ばには、猫を捨てることはそれほど非難されることではなかった。捨てた理由は分からない。家に入ってきて暮らす雌猫から産まれた、子供たちまで飼わなければならないのが負担になったからだろうか。とにかく彼らは猫を捨てて家に帰ってきた。ところが玄関のドアを開けて入ると、海辺に捨てた猫が彼らを嬉しく迎えた。猫が、自転車で帰ってきた彼らより先に家に帰ってきたのだ。

彼は、父親の顔を見た。戸惑った表情は、すぐ感心するような表情に変わり、後に安堵するような表情に変わった。それで、猫は以後家で暮らすようになった。村上春樹が父親を振り返りながら書いた「猫を棄てる」の冒頭に出てくる話だ。彼の家には猫がいつもいた。兄弟がいなかった彼にとって、猫は「大切な友達」だった。

彼は猫を捨てた記憶を思い出し、父親も自分の父親から捨てられたという話をふと思い出す。捨てられた猫と捨てられた父。彼の父親の世代は、食べ物が十分でなければ子供を養子に送ったり寺に預けることがたまにあったようだ。祖父は、幼い息子をある寺の童子僧に送った。ところが、息子はどういうわけか、しばらくして家に帰ってきた。彼はその後家に住んでいた。しかし、深い傷を抱えて生きてきた。彼が春樹の父親だ。

残念ながら、春樹と父親の関係は順調ではなかった。詳しく話さなかったので理由は分からないが、彼は20年あまり父親と顔を合わせずに暮らした。痛い記憶だ。それでも少しでも慰めになるのは、彼と父親が猫を捨てに行って猫に追い越された「素敵で謎のような経験を共有して」いるという事実だ。父親を思い出しながら哀悼する作家の心が、深くて切ない。