古代ギリシャ人と言えば、哲学、文学、政治学、そして戦争がまず思い浮かぶ。しかし、この本は、興味深くも彼らの私生活に入り込む。安東(アンドン)大学教授の著者は、男性中心の古代ギリシャ社会で存在感をあらわした女性の多くが高級娼婦ヘタイラだったという点に注目した。
ギリシャ社会で娼婦は4タイプあった。日雇労働者の1日分の賃金だった1オボロス(6ドラクマ)で体を売ったティクテイラデス(ポルナイ)、歌舞楽の芸能で宴会をわかせたアウレトゥリデス、男性の相手をした美少年男娼カタミテス、そして宴会で裕福な男性のパートナーとなって一夜で1ミナ(100ドラクマ)を手にしたヘタイラだ。
古代ギリシャで女性の社会的地位は非常に低かった。女性の結婚適齢期は14〜18才だったが、男性の結婚適齢期は30才を超えた。その生物学的違いと公的領域の空席を埋める存在が必要だった。アテネの僭主だったソロンが、「正しい公益的措置」と賛辞を受けた公娼制を導入した後、多くの都市国家がこれに従った理由がここにある。
ヘーゲルが言った「主人と奴隷の逆説」はこのように歪んだ性関係でも起こった。一般娼婦の暮らしは奴隷と違いがなかったが、高級娼婦であるヘタイラは、莫大な富と権力を享有し、最高権力者まで牛耳った。
エピクロスの愛弟子だったレオンティオンとアテネの共同統治者という評判を得たアスパシアは、知恵の女神アテナに匹敵する。特に、アスパシアは、名演説家で有名だった恋人のペリクレスの雄弁術の教師であり、プラトンの「饗宴」に登場する知的な女性ディオティマのモデルと称賛された。
ライスとプリネは、美の女神アフロディーテと言うに値する。ライスは、後日ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」にインスピレーションを与えたモデルとして不朽の名声を得た。オリーブ色漂う黄色い肌でカエルという猟奇的な愛称のプリネは、法廷で自分の裸をさらけ出し、「女性の美しさは無罪だ」という神話を作った。
また、失ったサンダルでエジプト王妃になったという伝説の主人公、ロドピスがシンデレラの原型なら、アレクサンダー大王の恋人でペルセポリス宮を炎上させたタイスはトロイ戦争を起こしたヘレネーに肩を並べるファーム・パタルだった。文章は流麗ではないが、馴染みの芸術作品の主人公として再誕生したヘタイラを含むカラー図版が豊富だ。






