大学生のチェ・ミンソン氏(23・女)のスマートフォンの中には、32種類のフォントがある。基本的に入っているのは10件前後だが、オンラインで追加で20件あまりをダウンロードし、そのときの気持ちに合わせて取り替えながら使っている。チェ氏は、「少なくとも2週間に1度は、新しく出た『新品のフォント』を確認し、気に入る2、3件を保存している」とし、「パソコン向けフォントまで合わせれば、これまでダウンロードしたデジタルフォントは100件以上ある」と話した。
アナログ時代の占有物として忘れられつつある手書きが、「デジタルフォント」として復活した。デジタルフォントとは、ウィンドウやマックなどで使うシステムフォントやスマートフォン専用フォントなど、デジタル環境で使用できる書体のことである。
関連業界によると、1990年代、コンピューターが普及して形成されたデジタルフォント市場は、毎年成長し続け、現在年間300億ウォン規模となっている。韓国国内で活動する専門会社だけでもサンドルコミュニケーションやユンデザイン研究所など、30ヵ所あまりに上る。
●スマートフォンという羽をつけて
デジタルフォントは、スマートフォンの大衆化のおかげで、本格的な全盛期を迎えている。韓国国内のスマートフォンの普及率が70%に迫り、モバイルやアプリケーション向け専用フォント市場が創出する付加価値は、年間1000億ウォン台に上っている。老眼を考慮した大型フォントから、個性を現す感覚的なフォントまで、くまなく人気を集めている。
スマートフォンメーカー各社も、フォント専門開発会社と手を組んで、市場拡大を図っている。三星(サムスン)電子は11年9月から、自社のコンテンツ販売アプリ(応用プログラム)「三星アプス」で、900件あまりのフォントを販売している。LG電子は昨年1月から、「LGスマートワールド」で、フォントの販売を開始し、現在405件のフォントを提供している。LGスマートワールドで上半期(1〜6月)中にダウンロードされたフォントは、計200万件。一部は、無料で提供されるが、その大半は、1件当たり2000〜3000ウォン台で販売されている。LG電子の関係者は、「月間の平均販売額が徐々に増加傾向を見せている」と話した。
デジタルフォント市場が膨らみ、フォント関連教室や事業も人気を集めている。特に、「カリグラフィー(calligraphy=文字をきれいに書く技術)教室」は、受講生が殺到し、待機者までできるほどだ。先月、カリグラフィークラスを新設した空間デザイン学院側は、「予期しなかった待機人数が15人もでき、来月、2つのクラスに増やす計画だ」とコメントした。
●足かせになる著作権侵害問題
しかし、携帯音楽プレーヤーやドラマ・映画ファイルがそうだったように、デジタルフォントも、著作権の侵害問題から自由ではいられない。有料フォントは、スマートフォン向けは1件当たり2000〜3000ウォン、システム向けは1件=6万ウォンほど払って、ダウンロードしなければならないが、これを守る人などあまりいない。デジタルフォントも同様に、厳然たる著作物だが、ネットユーザーの大半は、有料フォントを不法でやり取りしているからだ。ポータルサイトの「ネイバー」には、フォントを無料でダウンロードできるコミュニティが403件に上り、「フォントのダウンロード」で検索するとき出てくる結果物は、5万件あまりに迫る。
三星電子やLG電子などは、正式にダウンロードした原本フォントでなければ、スマートフォンで任意では使えないようにしているが、ネットユーザーらは、これを無力化するアプリを開発し、「槍」と「盾」との対決を連想させている。
フォントの開発会社各社も、有料フォントを大量に流すネットユーザーらを告発するなど、収益確保のために努力しているが、あまりにも広範囲にわたって違法行為が行われており、事実上手をこまねいている。年間市場規模が1200億ウォンほどの日本では、フォントの1件あたりの価格が韓国より2〜5倍ほど高く策定されているが、90%以上が有料で取引されている。韓国フォント業界は、韓流コンテンツの人気に乗って、海外進出も試みているが、国内に違法に流通されたフォントが、海外にも広まる可能性があり、容易ではないだろうという懸念も出ている。
法務法人「キルサン」の金龍逸(キム・ヨンイル)弁護士は、「国内では、フォントの著作権が事実上保護を受けていないのが現状だ」とし、「著作権法と関連し、体系的な整備が必要だ」と指摘した。






