国家情報院(国情院)が、テロに使われることが疑われる資金の内容を把握するために、令状なしに個人や法人の金融取引の情報を照会できる案を推進している。「特定金融取引情報の報告および利用などに関する法律(金融情報報告法)」によると、金融情報分析院(FIU)院長は、2000万ウォン以上の金融取引の情報と捜査に必要な別途の金融情報を、検察総長、警察庁長官、国税庁長官、関税庁長官、中央選挙管理委員長、金融委員長の要求によって提供できることになっている。国情院は、検察がFIUから受けた金融情報を閲覧することはできるが、金融取引情報の配布の線から外れて、テロ捜査に機敏に対応することができないと主張する。
国家安全保障のためのテロ防止は、決して疎かにしてはならない業務であり、韓国が「マネーロンダリングに関する金融活動作業部会」(FATF)に加盟するには、テロ資金の遮断に向けた法制整備が必要だ。しかし、司政・情報機関が、個人の金融取引情報を照会することには限界がなければならない。捜査情報機関が便宜によって金融取引情報を照会できるようになれば、金融秘密の保護という大原則が損なわれ、市場の安定を揺るがし、国民のプライバシーを深刻に侵害する恐れがある。
国情院は、情報収集権の濫用で、特定人物に対する調査の疑惑と国民の基本権の侵害という副作用を生んだ原罪がある。独裁政権時代までさかのぼらなくても、金大中(キム・デジュン)政府時代にも、国情院は不法盗聴で物議をかもした。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政府時代、07年の大統領選挙でも、国情院の課長クラスが別の国家機関を通じて、李明博(イ・ミョンバク)候補の不動産保有現況や納税明細といった個人情報を収集し、物議をかもした。国会審議中の「国家対テロ活動に関する基本法」制定案で、テロ危険人物の金融取引情報を収集する権限を国情院に付与するかどうかをめぐり、政界の反対が激しいことも、国情院の「報い」だと言える。
元世勲(ウォン・セフン)国情院長の就任後、固有の業務とは直接関係がないことに関与し始めたという論議が起こっている。このような論議が、すべて事実かどうかは確認できないが、最近その頻度が多くなっていることは普通ではない。国情院の「保安情報収集活動」をめぐっても意見が多い状況で、令状のない金融取引情報の照会が、セキュリティ情報の収集業務に止まるとは信じがたい。国情院長が、政権が変わる度に捜査対象になり、時には拘束されたことは、国情院の業務が政権によって、また院長によって揺れているためだ。
国情院は、固有の業務遂行のために必要な金融取引情報があるなら、裁判所の令状を受けて閲覧すればいい。国情院の至急の課題は、国家最高情報機関にふさわしい先進情報の収集能力を開発し、政治の中立性に対する国民の信頼を確保することだ。