いま世界金融の中心地ウォール街を支配する言葉は恐怖だ。13ヵ月前にサブプライムモーゲージ(非優良住宅担保融資)焦げ付き事態に端を発した金融危機は、これからは全く新しく、遥かに深刻な局面に突入したと、米紙ウォールストリートジャーナルが報じた。
2大モーゲージ会社であるファニーメイとフレディマック、米国上位3、4位の投資銀行リーマンブラザースとメリルリンチ、世界最大手の保険会社AIGなどを巻き込んだ金融危機の中を生き延びる金融会社はどれほどいるだろうか、との恐怖感がウォール街を襲っている。
投資者たちは株を投げ捨て、金、原油、米国国債など安全な資産に投資先を移している。米政府が巨額の流動性をつぎ込んでいるものの、市場では資金の需給が逼迫している。
●「生き残りたいなら、誰も信用するな」
16日、ニューヨーク証券市場が反騰しウォール街の最大の「時限爆弾」とされてきたAIGへの救済金融が発表されると、ウォール街の専門家たちは「最悪の状況は免れるのでは」と慎重ではあるが、安堵感があった。
しかし、そのような安堵感は、わずか1日ぶりに外れた。17日、ニューヨーク証券市場は、文字通りの「投売り」そのものだった。投資者たちは「誰も信用できない」として売りに出た。米国の各メディアは「信頼の危機が深刻な水準に暴走している」と診断した。
この日も、ニューヨーク証券市場の暴落は金融株が主導した。米連邦準備制度理事会(FRB)の救済金融で、既存の株の価値がほとんど消えてしまったAIGはもちろんのこと、投資銀行の上位5位までのうち生き残ったゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレー、「次の番」として早くから取り沙汰されてきたワシントン・ミューチャルなどの株価が暴落した。
前日のウォール街の予想を上回る業績を発表したモルガン・スタンレーの株価は24.22%下落し、ゴールドマン・サックスは13.9%下落した。両社の株価は、取引き時間中にそれぞれ40%と24%まで暴落する場面もあった。
カリフォルニア州立大学のソン・ソンウォン碩座教授は、「AIG救済策にもかかわらず、ニューヨークの証券市場が急落したのは、信頼が悪化していることを示している。信用を抜きにして経済のまともな働きはあり得ないことを考えると、グローバル経済のリスクが高まったいる状況」と説明した。
●米国債の収益率、50年ぶりの最低水準
ウォール街の投資者たちは、株を投売りして金、銀、米国国債など信用できる資産に移行している。金の価格が史上最大幅の値上りを見せ、米国国債の収益率は50年ぶりの最低水準に下がった。
この日、ニューヨーク商業取引所(NYMEX)で12月引き渡し分の金価格は前日に比べて1オンス当たり70ドル(9%)も暴騰した850.50ドルで取引きを終えた。1日の値上げ幅では過去最大だった。金価格は、取引終了後の電子取引でも20ドル以上の追加上昇があった。
12月引き渡し分の銀価格もオンス当たり11%も急騰した1オンス=11.68ドルを記録し、10月引き渡し分の白金価格は1オンス=1086.30ドルと1.7%上昇した。
原油価格も急反騰した。10月引き渡し分のウエスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)原油価格は、前日に比べて1バレル当たり6.01ドル(6.6%)値上りした97.16ドルで取引きを終えた。
3ヵ月満期の米国債の収益率は、同日0.63%急落した0.06%で取引きを終えた。収益率は1週間前は1.644%だった。ニューヨークタイムズは、ここ50年ぶりに最も低い水準だと報じた。
市場には資金の需給が逼迫し、金融市場の短期的な資金事情を示す指標であるリボ(Libor=ロンドン銀行間の金利)が、9年ぶりに最大幅の上昇を見せた。同日、3ヵ月リボ金利は3.0635%で、前日に比べて0.19%上昇した。これは1999年9月29日以来の最大幅の上昇だ。
リボ金利が急騰したのは、金融システムの不安定化で銀行が互いに貸し渋っていることを意味する。
ニューヨークタイムズは、「市場参加者たちが株など、相対的にリスクを抱えている資産を投売りして、米国債など安全資産に投資先を移しているのは、現在の状況下では合理的な意思決定ではあるが、このような集団行動がグローバル経済を失速させる要因になりかねない」と懸念を示した。
●ウォール街、生き残りかけた合従連衡
金融危機への恐怖感が広がると、ウォール街では生き残りをかけた「合従連衡」の動きが強まっている。
ニューヨークタイムズの電子版は17日、ウォール街で生き残った「ビック2」の投資銀行の一つであるモルガン・スタンレーがワコビアまたは他の銀行との合併を進めていると報じた。
モルガン・スタンレーはワコビアと初期段階の合併交渉を行っていると、同紙は伝えた。
また、モルガン・スタンレーのジョン・マック最高経営責任者(CEO)はシティグループのビクラム・パンディットCEOに合併交渉を提案したが断られたとされる。
米CNBC放送によると、英国銀行HSBCと中国のCITIC銀行も、モルガン・スタンレーの買収に関心を示しているという。
また、最近資金難に苦しんでいる米最大手の貯蓄ローン会社であるワシントン・ミューチャルは、ゴールドマン・サックスを諮問会社に選定し、数日前から売却のための入札作業を進めている。ウェルス・ファーゴ、JPモルガンチェイス、HSBCなどが関心を見せているという。
このような買収合併をめぐる交渉結果次第で、ウォール街には再び巨大な地殻変動が起きるものとみられる。
higgledy@donga.com






