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[オピニオン]タンポポの遺伝子戦争

Posted July. 07, 2006 03:28,   

ノアの洪水があったころのことだ。「ノアの箱舟」に招待されなかった人と獣はぽたぽた降る雨脚を恐れ、山の上へ逃げかけた。洪水の災いは植物でも例外ではなかった。すべての植物が生き残るために必死だったが、根が地にしっかりついているタンポポは身動きひとつすらままならなかった。ぽっかりと空に穴があいているかのごとく、あっという間にドシャブリの雨になり、タンポポの腰まで水浸しとなった。「神様、このつまらない植物を助けてください」。タンポポは一生懸命祈った。タンポポの切な祈りに応えるかのように神様は激しい風を送った。風に吹かれて遠く飛んでいったタンポポの種は、ノアの箱舟の屋根の上にそっと降りた。そして、洪水が終わったあと、ようやく芽を出した。そのため、「感謝する気持ち」がタンポポの花言葉なのだろうか。

◆「タンポポの種になり」というタイトルの大衆歌謡もあり、タンポポは「お座り花」と呼ばれるほど、小柄ながらも種は40kmまで飛んでいく。それだけ生命力の強い植物なのだ。根が地下の深くまで張るため、踏みにじられてもなかなか死なず、折られると幹から牛乳色の汁が出る。若葉はおひたしに利用され、根は解熱剤に使われたりする。寒い冬をしのぎ、毎年4、5月になると白い花を咲かせるタンポポは「踏みにじられても立ち直る」韓国民族の情緒とも似たものがあり、歌や詩の十八番になっている。

◆ところが、春になると山と野原に咲き乱れているこの黄色い花が、在来のタンポポではないという。環境部が「在来タンポポの外来化傾向」について全北(チョンブク)大学研究チームに調査を依頼した模様だ。在来種のタンポポは、繁殖力がより強い西洋のタンポポに強制的に交配され雑種になったが、今はそれさえ深い山奥でなければ見かけることすらできないほど、韓国の自然からほとんど消えているという調査結果が出た。強い遺伝子のみが生き残る遺伝子戦争で敗れた格好だ。ところが、在来種のタンポポは外来種に押し出されてこそいるものの、その「形跡」だけは残している。外来種の遺伝子の中に自分の遺伝子を残したわけだ。

◆西洋のタンポポが韓国種を押し出したのは、厳しい環境でも耐えられる強い繁殖力をつけていたためだという。生態系ほど「ジャングルの法則」がはっきりしたところはない。しかし、西洋のタンポポが最初から優性だったわけではない。韓国種との交配により遺伝子がいっそう競争力を身につけた。一種の「雑種の優性化」といえよう。ただでさえ、韓国種が消えていくところへ、在来種のタンポポが絶滅寸前だということは残念だが、植物さえ世界化の例外にはなれないということをしみじみと感じさせられる。

鄭星姫(チョン・ソンヒ)論説委員shchung@donga.com