スペイン・インフルエンザは第1次世界大戦より恐ろしかった。1918年に世界を襲ったインフルエンザで2000万〜5000万人ほどが命を失った。戦争による死亡者数をはるかに上回る犠牲だった。当時の作家、バーナード・ショーも「本当に自殺でもしたいくらいだ」と苦痛を訴えた。アジア・イフルエンザと呼ばれた57年には9万8000人が、香港インフルエンザが横行していた68年には4万6000人が死亡した。
◆科学者たちはこれらのインフルエンザの発生経路が同じだと言う。人と豚と鴨が入りまじって暮らす中国南部地方で、鴨のウイルスが豚に移って、さらに人に移り、致命的な結果を生んだというのだ。最近の鳥インフルエンザと似ている様相だ。これまで死亡者が20人余りである鳥インフルエンザに世界が緊張する理由がここにある。オーストラリア国立大学のトニー・マックマイケル教授は「人間の暮らしが近代化、世界化するにつれて動物ウイルスも進化して人間に移ってきた」とし、動物が人間を脅かすことはこれからさらに増えるだろうと語った。そういえば、郷愁を誘う渡り鳥がウイルスを伝播させる主犯だという研究まで出たほどだ。
◆疫病も天災地変のように人間の統制範囲の外にある。しかし、政治的リーダーがどう取り組むかによって、後遺症を最小限にくい止めることができる。97年に鳥インフルエンザが発生したとき、香港政府はわずか3日でニワトリとカモ1万500羽余りを屠殺処分して、死亡者を6人に抑えることができた。去年サーズ(SARS・重度急性呼吸器症侯群)を秘密に付して国際的批判を受けた中国も、今回は鳥インフルエンザ専担総指揮本部を緊急に設置して非常体制に入った。
◆この前のことさえ忘れて同じ過ちを繰り返すのは鳥インフルエンザやサーズに劣らない不治の病のようだ。「歴史忘却証」の主人公はタイのタクシン・シナワット首相だ。世界4位の鳥肉輸出国の地位を逃さないために鳥インフルエンザ発生を隠して、結局、株式の恐慌投げ売りと市場の信頼性喪失を招いたというのがバンコク・ポスト紙の指摘だ。タクシン首相は最近「今回の事態は私たちが過去の教訓に対していくら注意を傾けても、間違いはいつでも起こりうるということを気づかせてくれた」と弁解した。中国のようにすっきり謝って責任を問えば、遅ばせながら国のイメージを回復させることができたのに、他の国の事だが残念でならない。
金順徳(キム・スンドク)論説委員 yuri@donga.com