▲「プライバシーはない」〓企業内の高級情報を取り扱うソン氏(35)はこのごろ、携帯電話の使用を忌避している。親友が捜査機関に勤めている先輩から聞いた彼についての情報が、正確に一致したからだ。自分の通話した日付と時間、通話した相手やその相手と会って交わした話などを、先輩は詳しく知っていた。ソン氏は「今回、国家情報院(国情院)が国民(ククミン)日報記者の通話記録を照会したのを見て、他人事とは思えなくなった」と話した。
昨年、捜査機関の要請を受けて、通信記録の照会に協力した会社は、KTF、ハナロ通信、SKテレコムなど15の基幹通信会社のほかに、ネオウィズ、ヤフーコリア、コリアドットコムなど付加通信事業者と別定通信事業者など約70社と言われている。ほぼすべての通信関連業者が、捜査機関に加入者の情報を提出しているのだ。
▲「デジタルのこん跡は消されない」〓最近は、全地球測位システム(GPS))の受信チップを内蔵した端末が発売され、携帯電話加入者の位置を5m以内の単位まで追跡するのが可能になった。とりわけ、位置追跡の場合、ずさんなセキュリティー管理のため、国家権力機関でなくても誰にでもできるとされ、衝撃を与えている。最近、SKテレコムの職員が加わったグループが外部の依頼者からカネを受け取って加入者の位置を知らせ、摘発された事件が代表的な事例。彼らは、加入者には知らせずに「携帯電話位置追跡」サービスに加入し、加入者の位置情報を他人に漏らしていた。
この過程で、加入者の端末の固有番号(ESN)を入手して作った複製端末が活用された点も、驚かされる部分。情報通信部(情通部)は昨年、国政監査で、複製電話による通信傍受の疑惑が提起されると「もとの電話機がなければ端末の複製は不可能だ」と主張したが、通信会社の職員がその気にさえなれば、端末の原本がなくてもいくらでも複製電話の製作が可能であることが明確になったのだ。昨年、放送局の実験によって、複製電話による携帯電話の盗聴が可能である点が確認されたが、こうした盗聴行為を規制するための関連法の見直しは行われずにいる実情だ。
▲通信秘密侵害は合法?〓現行の通信秘密保護法第13条は「検事および司法警察官が通信事実を確認するための資料を要請する場合、所轄の地方検察庁・検事長の承認を得なければならない」と定めている。また「情報捜査機関の長は、国家の安全保障と関連した危害を防ぐために、通信記録の照会を要請できる」との例外条項を設けている。
しかし「国家の安危と関連した懸案」であるかどうかを判断できる根拠がなく、機関の長の許可さえ受ければ、難無く通信記録を閲覧できるようになっている。記者の通話記録を照会した事件の場合も、安保と関連した部分は見当たらない。
情報技術(IT)の発達で、個人情報はあらゆる所に記録が残るようになっているが、粗末な照会手続きのために、国民は「常時の通信傍受状態」から抜け出せずにいるというのが、市民団体と学界など専門家らの指摘だ。
そのため、資金力のある各企業は、相当な金額を通信保安に投資しているのが実情。盗聴防止会社「韓国通信保安」のアン・ギョスン社長は「各企業が、通信網の保安を強化する表向きの理由は、競合会社や産業スパイに備えるためということだが、根本的には、国家機関による盗聴・通信傍受や記録の照会を念頭に置いているというのが公然たる秘密だ」と話した。






