先月行われたアカデミー賞授賞式で、最優秀作品賞、監督賞など4部門に輝いた「ビューティフルマインド(美しき精神)」の舞台は、米国東部の名門プリンストン大学である。この大学には、ノーベル賞を受賞した前現職の教授が、20代で書いた博士号論文の「非協力ゲーム」でノーベル経済学賞を受賞した、数学科のジョン・ナッシュ教授をはじめ31人に及ぶ。
この映画で、プリンストン大学の教授が優れた学問的業績を成し遂げた同僚の教授に対して、尊敬の心を込めて自ら使っていた万年筆を献呈するシーンが2回にわたって出てくる。20代で天才的な論文を発表して後に精神分裂症を患い、忘れられた存在であったが、60代でノーベル賞候補になったナッシュ教授の机に、ほかの教授らが次々と並んで万年筆を置いている場面は、実に感動的だ。
米国の名門大学は、学校をPRするパンフレットに、決ってノーベル賞を受賞した教授を紹介して、自慢にしている。ハーバード大学は、前現職の教授のうちノーベル賞受賞者が39人で、同分野の随一を誇る。研究分野のノーベル賞受賞者が一人もいない私たちとしては、ノーベル賞を受賞した教授をもつ米国の名門大学がうらやましい限りだ。
このほど、ソウル大学をはじめ多くの大学で、次期総長を控えて選挙運動が過熱気味をみせており、食事の接待、出身校や出身地によって支持する候補が分かれるなど、副作用を憂える声が強まっている。和食のレストランで刺し身を振舞う教授は当選し、質素な食事を振舞う教授は落選するという話がある。市議会議員を選ぶ選挙でも、酒と食事を接待する選挙運動をすると刑事処罰に処せられ、当選しても議員の資格が失われるというのに、大学の総長選挙には当選無効ということもない。
ハーバード大学が、大学の総長を選任する広範囲で集中的な過程をみていると、優秀な学生が入学しているという事実だけで、最高の大学の地位を守れるのではないという思いがした。2000年6月、ニール・ルディンスタイン前総長が1年後に退くという意向を明らかにしたことから、ハーバード大学は第27代の総長を選ぶ手続きを踏み始めた。財団の理事などで構成される総長推薦委員会を設け、30万に及ぶ教職員、学生、同窓生さらに政府と非営利団体に対して、次期総長が備えるべく資質と能力に関する意見とともに、総長候補の推薦を求める手紙を送った。
総長推薦委員会は教授、単科大学の学生代表、大学院生代表らを招き、次期総長について意見を求める一方、他の大学の教職員まで面談した。このような過程を経てしぼられたおよそ500人の候補の中には、クリントン前大統領、ヒラリー上院議員、ハロルド・バーマス前国立保健院院長、ローレンス・サマース財務長官が含まれている。最終的な選抜は、財団とハーバード大学の学位所持者で構成される監督委員会が決めることになる。
サマース総長は就任以来、ハーバード大学がスピーディーに変化するグローバル経済のなかで、学部の学生が必要とする教育を提供することができなかったという判断の下、大学の構成員たちに歓迎されない改革を進めている。人並みの成績であれば「B」を与えていた単位の管理を厳しくする一方、教授が学部の学生とさらに多くの時間を過ごせるよう奨めている。また、医学分野と生命科学分野の特長を生かして、ハーバード大学のあるケンブリッジとボストンを、第2のシリコンバレーに作り上げるための、野心に満ちたプロジェクトを推し進めている。
米国の大学総長は、寄付金集めのため電話の前に付きっ切りで、募金パーティーで休む暇がない。ハーバード大学は、1年間の寄付金が180億ドルを超える。多彩な公職のキャリアーをもつ総長が、内部の教授の中から選ばれた総長より募金実績に優れているのは、それもそのはず。
韓国の大学が、教授たちの手で総長を選ぶ選挙制度を採択したのは、1987年の6・29以降、自律と民主化の波が社会の各分野にわたって押し寄せていた時期であった。総長直接選挙制度が大学社会を改革し、民主化する上で一定部分の貢献したのも事実である。直接選挙制度以前の国立大学の総長は、政界にパイプを持つ天下り人事で埋められ、一部の私立大学では、財団の不正と総長の専横で争いが絶えなかった。
ところが現在、総長直接選挙制度が大学社会に少なからぬ害悪を及ぼしている。選挙に勝った方は、大学の補職を戦利品として分かち合い、恩恵に預かれなかった教授らは総長の任期中、大学の中の野党を務めるケースすらあると言われる。組合せとグルーピングを通じて当選した総長は、内では構成員の苦痛を必要とする改革に取組み難く、外では幅広い活動を通じて大学の発展に向けた対外的な支援を誘致する上でも、限界を見せるようになる。
補職を追求する学内政治の代わりに、美しき精神が織り成した研究業績に対し尊敬を捧げる文化が定着してはじめて、私たちも研究分野におけるノーベル賞に希望を抱くことができるだろう。
黄鎬澤(ファン・ホテク)論説委員






