エヌビディア(NVIDIA)最高経営責任者(CEO)のジェンスン・フアン氏の来韓に、産業界全体が沸き立った。弘大(ホンデ)周辺のサムギョプサル店からインターネットカフェ、野球場、各企業の社屋まで、訪問先ごとにファン氏の写真を撮ろうとする20~30代の若者が集まり、関連企業の株価も上昇した。あまりの熱狂ぶりに、その動向を追跡するウェブサイト「ジェンスン・フアンの足跡」まで開設されたほどだ。「ロボティクスとフィジカル人工知能(AI)の時代がついに到来した。韓国ほど準備が整った国はない」「韓国は重工業、製造業、電子、ソフトウエア、AI研究の力をすべて備えた極めてユニークな国だ」といったファン氏の評価に、楽観論も相次いだ。エヌビディアが韓国をフィジカルAI時代の中核パートナーに選んだというわけだ。ソウル大学の学生たちはファン氏に「Kジェンスン」というあだ名まで付けたという。
確かに韓国は、半導体から造船、自動車といった伝統製造業の基盤に加え、ゲーム、ロボット、AI産業まで備える数少ない国だ。フアン氏もそうした点に注目したのだろう。エヌビディアがいかに優れたフィジカルAIの「頭脳」となるソフトウエアを開発したとしても、現実世界に適用するには、それが正しく機能するかを試すテストベッドが必要であり、韓国ほど適した場所を見つけるのは難しい。
しかし、熱狂をいったん冷まして考える必要もある。ファン氏は韓国をフィジカルAI時代の「勝者」と呼んだのではなく、「よく準備された国」と評した。「準備」と「勝利」は別物だ。そして最終的な勝敗は、今後フィジカルAIのサプライチェーン全体をどれだけ強固に育てられるかによって決まる可能性が高い。半導体大国であり、堅固な製造業基盤を誇る韓国だが、フィジカルAIのサプライチェーン全体における存在感はまだ弱い。例えば、現代(ヒョンデ)自動車傘下のボストン・ダイナミクスは「アトラス」のようなロボットを誇るが、韓国ロボット産業の部品・素材の国産化率は40%台にとどまる。ロボットの心臓部である減速機や制御装置は日本に、モーター用のレアアース磁石は中国に依存している構造だ。では、ロボットの身体ではなく頭脳は掌握しているのだろうか。ロボットなどフィジカルAIの実現には、現実世界の物理的変化を予測し、AIの学習や意思決定を支援する「ワールドモデル」技術が核心とされる。韓国企業もワールドモデル構築に乗り出しているが、この分野も依然として海外依存度が高い。現在最も影響力のあるワールドモデル基盤は、エヌビディアの「コスモス」だ。
韓国はフィジカルAI時代の有望市場であり、重要な実験場でもある。しかし現状では、技術やサプライチェーンを主導する国というより、グローバル企業が開発したプラットフォームやソリューションを最も効果的に活用できる国に近い。
フアン氏の来韓が、韓国フィジカルAIの可能性を示したのは確かだ。しかし慌ただしかった訪韓日程はすでに終わった。今こそその訪問を契機に、私たちが何を持ち、何が不足しているのかを冷静に見つめ直すべきだ。韓国はAI時代において誰よりも有利なスタートラインに立つ国だ。問題は、フィジカルAI時代の「主役」になるのか、それとも海外企業が作ったプラットフォームを最も多く利用するありがたい「優良顧客」にとどまるのかが、まだ決まっていないという点である。フアン氏の来韓が残した問いは、まさにそこにある。
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