2022年5月、デンマークの公共放送DRは、政府が1960~70年代に、グリーンランドの先住民イヌイットの女性約4500人に対し、子宮内避妊具を強制的に装着したと告発した。当時、グリーンランドの女性人口は約9千人。女性の半数を、実験用のマウス同然に扱っていたのだ。被害者の中には、初潮も迎えていない12歳の少女も含まれていた。
社会は大きな衝撃に包まれ、被害者たちは損害賠償を求めて提訴したが、デンマーク政府は「事実関係の調査」を理由に謝罪を先送りし続けた。2019年から政権を担うフレデリクセン首相が公式に謝罪したのは、最初の報道から3年3カ月が経過した昨年8月27日のことだった。
1814年、グリーンランドはデンマーク領として残された。1953年に本国の一部として編入して以降、「同化」の名の下に、デンマーク語の強制教育や、デンマーク人家庭への児童の強制養子縁組などが行われた。強制的な避妊政策も90年代まで続いた。2009年に自治権を獲得していなければ、こうした事実はいまも闇に葬られていた可能性が高い。
フレデリクセン氏の謝罪は、果たして100%真意だったのか。謝罪当日、デンマーク外務省は、グリーンランドで少なくとも3人の米国人が親米世論の形成に関与したとして、マーク・ストロ駐デンマーク米臨時代理大使を呼び出し、抗議した。米紙ニューヨーク・タイムズなどは、謝罪のもう一つの背景として、トランプ米大統領の存在を指摘した。
トランプ氏は第1次政権下の2019年8月、初めてグリーンランド購入の意向を示した。昨年1月に再び政権に就いて以降は、軍事介入の可能性にも言及し、露骨に併合論を押し出している。こうした米国に対抗するには、まずグリーンランド人の怒りを鎮める必要があると、デンマーク政府が判断したという見方だ。
世界各地で主権への介入を繰り返すトランプ氏の姿勢は、批判されるべきだ。しかし、これを非難するデンマークもまた、グリーンランドに対して少なからぬ過ちを重ねてきた。世論調査が示すグリーンランド人の本音は、「米国もデンマークも望まない。独立だけを求める」という一点に集約される。しかし、目立った産業を持たず、デンマークの財政支援に依存する現状では、独立は事実上不可能に近い。
人口約600万人のデンマークと、約5万7千人のグリーンランドはいずれも、米国と北大西洋条約機構(NATO)の安全保障に依存している。デンマーク正規軍は約2万1千人にすぎない。トランプ氏を悪魔化することは、一時的な感情のはけ口にはなっても、安全保障の強化には何ら寄与しない。第2次世界大戦中、ナチス・ドイツがデンマーク本土を占領した際、グリーンランドを守ったのは米国だった。
ロシアのプーチン大統領の最側近のメドベージェフ国家安全保障会議副議長は12日、「トランプ氏は急ぐべきだ。住民投票を行えば、グリーンランド人は全員ロシア編入に賛成するだろう」と主張した。「米国がためらうなら、我々が取る」というロシア、中国もまた、資金力を背景に空港などのインフラ整備を持ちかける点で、トランプ氏と本質的に大きな違いはない。
結局、グリーンランドをめぐる一連の動きは、「自強こそが生き残る道」という国際秩序の冷酷な現実を浮き彫りにしている。トランプ氏の退任や、グリーンランド人の意思とは無関係に、主要な大国によるグリーンランドを巡る駆け引きは今後も続くだろう。
河貞敏 dew@donga.com
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