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現実とイメージの狭間で

Posted December. 04, 2025 09:53,   

Updated December. 04, 2025 09:53


人は見たいものを見る。真実より信じたい方を選び、慣れ親しんだ枠組みの中でのみ対象を理解しようとする。見えるものと実在するものは決して同一ではないにもかかわらず。ルネ・マグリットの『人間の条件』(1933年、写真)は、まさにこの認知の習性を視覚化した作品だ。私たちは世界をありのまま見ていると信じているが、実際にはいつも何らかのフレームを通して見ているという事実を突きつける。

構成は単純だ。窓辺に置かれたイーゼル、その上のキャンバス、そして窓の外の風景。キャンバスには窓の外の風景の一部が描かれており、それが窓の向こうの実景と完全に連続して見える。鑑賞者は自然と、このキャンバスが現実を再現しているのだと想定する。つまり、絵の中の風景が現実であり、キャンバスはその現実を写し取ったものだと。しかし、この想定こそマグリットが執拗に揺さぶろうとした点にほかならない。

少し立ち止まって考えればすぐ気づく。窓の外の「実景」だと信じる領域も、そこに描かれたキャンバスの風景も、いずれも画家が一つの画面に構成したイメージにすぎないことを。現実に見える窓の外風景も実は絵であり、その上に重ねられた風景も絵の中の絵にすぎない。両者を区別しようとする試み自体が、慣れ親しんだ認知の習慣から生じていると、作品は示している。

「人間の条件」は、知覚と実在の関係という古くからの哲学的問題を絵画的に凝縮した作品である。だが制作時期を思い返すと、さらに別の意味を帯びて迫ってくる。1933年とは、ナチスがドイツで政権を掌握し、宣伝とイメージ操作によって大衆の知覚を支配し始めた時代だった。大衆は「見せられた通り」に現実を見て、信じたい虚構を信じてしまった。その結果、暴力と真実は覆い隠された。作品は今日を生きる私たちにも問う。いま自分が見ているものは実在なのか、それとも馴染み深いフレームが構成したイメージなのかと。