豊かな老後に不可欠なものは何かと問われれば、多くの人が「お金」「健康」「幸福」を挙げるだろう。お金と健康は理解しやすいが、幸福はやや主観的だ。そのため「社会的つながり」「生きがい」などと置き換えられることも多い。つまり、一人きりで孤立せず、自分が生きていると実感できる状態を指す。
定年前後の中高年が見落としがちなのが、この社会的つながりだ。仕事が人生の中心だった人ほど危険である。多くの経験者によれば、退職直後は「暇すぎて過労死」は束の間で、半年も経てば職場経由の人間関係はほとんど途絶える。やがて人生に孤独が訪れる。
今や社会は「自力で生き残る」時代であり、孤独が当たり前の世の中だ。そのため「どうせ老いれば孤独になるのだから『孤独力』を高めよ」という助言もしばしば耳にする。
なぜ、これほど孤独な社会になったのか。専門家は一人暮らし世帯の増加、格差と貧困、高齢化などを指摘する。韓国では全世帯の3分の1(36.1%)が単身世帯で、そのうち35.5%が高齢者世帯だ。2040年には高齢者10人中4人が一人暮らしになると予測されている。老後の独居は社会的孤立を招きやすく、いわゆる「孤独死」の危険性も高まる。
誰もが人生の中で孤独を感じることはある。問題は、それをきっかけに孤立の深みに陥りやすいという点だ。退職や配偶者との死別、ビジネスの失敗などでうつや疎外感にさいなまれたとき、話し合い、頼れる相手がいなければ孤立状態となる。統計庁が毎年実施する社会的孤立度調査によると、「身体的・精神的危機に際して助けを求められる場所が一つもない」と答えた国民は10人に3人(2023年)に上った。年代別では20代が24.5%だったのに対し、60歳以上では40.7%と年齢に比例して増加していた。60歳以上をさらに細分化して調査すれば、より顕著な結果が出たであろう。
孤独への警戒心は海外ではすでに高い。米ハーバード大学医学部のジェレミー・ノーベル教授は著書『孤独から抜け出すプロジェクト』で、孤独は「毎日15本のたばこを吸うのと同じくらい健康に有害だ」と指摘する。孤独によるストレスは免疫系を弱め、炎症を促進し、心血管疾患、がん、認知症、糖尿病などにつながる恐れがある。精神面でも孤独は自尊心を低下させ、自分を放任し、社会的交流を阻害して安全網を失わせる。ノーベル教授が示す解決策は「他者とのつながりと絆」だ。
2018年から孤独を社会的疾患と位置づけた英国では、医師が薬の代わりに人々と一緒に活動する場を提供する「社会的処方」を始めた。直接的な交流を取り戻すことで、生気を失っていた高齢者が再び活力を取り戻したという報告が相次ぐ。
先日会った70代の弁護士の言葉が心に残っている。彼は「韓国の老後最大の問題は孤独だ」と言い、「非常に貧しい人は国が面倒を見てくれるし、非常に裕福な人は自分で解決できる。しかし中間層は何の対策もなく放置されている」と話した。
孤独を和らげる福祉の手が、基礎生活保障の対象者だけに及ぶのは現実的に仕方がない。ならば中間層の高齢者は、自らの力で社会的孤立を打破する努力をしなければならない。健康が許す限りよく動き、人と会い、良好な人間関係を維持し、軽い仕事やボランティアを通じて生きがいを見つけていく必要がある。
先月13日、国政企画委員会が掲げた新政権の国家ビジョンには「共に幸福な大韓民国」という言葉が目を引いた。与党内で「国民総幸福」を増やす法案準備が進んでいるとの話もある。個人の努力に加え、国家も高齢者活動を積極的に支援する仕組みをさらに整備することを期待したい。
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