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虎のいない山には平和が宿るのか

Posted September. 02, 2025 09:22,   

Updated September. 02, 2025 09:22


英国の推理小説作家フレデリック・フォーサイスさん(1938〜2025)は、BBCやロイターなどの報道機関で活躍した潜入調査型の記者だった。彼は自身の取材経験をもとにスパイ小説を執筆し、世界的な名声を得た。彼の作品はリアリティに定評があり、ある都市の風景を描写する際には、街角のタバコ屋までそのまま登場させたという。一部では彼の強い政治的傾向に反感を示す声もあるが、実際には現実世界の冷徹な国際政治を指摘する点においては、体制の違いを問わなかった。

古い作品だが、デタントが始まり冷戦体制が崩れつつあった時代を背景にした彼の小説がある。冷戦終結後、各国は情報機関の縮小に着手する。英国の対外情報機関MI6で次期情報局長候補にまで挙がった有能な要員も、リストラの波から逃れることはできなかった。最後の任務を終えて退役し、田舎で釣りを楽しんでいたところ、世界各地で局地戦が勃発しているというニュースが流れる。その知らせを聞いて主人公が大笑いする場面で小説は終わる。

その後に書かれた作品は読んでいないので、主人公が復職して再び活躍したかどうかは分からない。しかしこの場面は長く記憶に残った。フォーサイスさんを敬愛していたからではない。米国やソ連のような覇権国家が消えれば世界に平和が訪れると信じる知識人に数多く出会ってきたからだ。世界のあらゆる不条理や悪も消えると信じる人も意外に多かった。

奇妙なのは、どれほど歴史的事例を挙げて説明しても、一度こうした信念を持った人は決して自分の考えを変えないという点だ。しかもその多くは歴史学者だった。最近では、米国、ロシア、中国などが自国のことで手一杯になっている中、一部の国では戦争が起きている。最近ではコロンビアやベネズエラも不穏な様子を見せている。覇権国家が完全に消えていないからだろうか。