
「なんで私の物を盗むんだ?この泥棒。殺してしまうぞ」
先月8日未明、京畿道(キョンギド)の地下鉄駅近くの歩道。環境美化員(清掃作業員)として一人でゴミを片付けていた50代の女性のキム・ヨンスク(仮名)氏の手を、酔客が強くつかみながら、こう言った。ベンチにうつぶせになって寝ていた酔客の隣にあったビール瓶とお菓子の袋を、キム氏が片付けると、いきなり脅したのだ。この酔客は、もつれた舌で唾を飛ばしながら、しきりにキム氏に悪口を言った。驚いたキム氏が、「何をするの」と手を振り切ると、酔客はさらに興奮して大声を上げた。ちょうど通りかかった通行人の助けで危険を免れたが、通行人が現れなかったらさらに大きな災難に遭うところだった。
●安全の死角に置かれた環境美化員たち
今月2日午前5時10分頃には、ソウル崇礼門(スンレムン)近くの地下歩道で清掃をしていた60代の環境美化員が、凶器に刺されて殺害されるなど、環境美化員が「安全死角地帯」に置かれているという指摘が大きくなっている。深夜や明け方など人通りの少ない時間に、一人で働く労働者が多いため、犯罪はもちろん、交通事故などに無防備に露出しているという。
京畿道儀旺市(キョンギド・ウィワンシ)で20年間、環境美化員として働いてきたソン・ジェソンさん(56)は、「よそで見知らぬ人から文句を言われることも多い」とし、「一人で働くのは、どうしても不安になる」と吐露した。
12日午前、東亜(トンア)日報の取材チームが、ソン氏と同行して勤務現場を確認した結果、「安全死角地帯」があちこちで見つかった。防犯カメラが設置されていないひっそりとした路地の奥まで入って、ゴミを収集しなければならない状況が続き、ややもすれば犯罪にさらされかねない。道路の真ん中でゴミを片付けているソン氏の背後を、ダンプトラックがさっと通り過ぎたこともあった。ダンプトラックとソンさんとの間は、1メートルにもならなかった。ソン氏は、「一人で働いているのに、目が後頭部についているわけでもなく、自ら気をつけるしかない」と話した。
実際に仕事中に負傷したり死亡する環境美化員は、この5年間で増加傾向にある。国会環境労働委員会所属の最大野党「共に民主党」の金台善(キム・テソン)議員室が、勤労福祉公団から受け取った資料によると、勤務中に死亡または負傷し、労働災害が認められた環境美化員は2019年は5078人、2020年は5136人、2021年は5627人、2022年は5859人と毎年増加している。昨年は6439人まで増え、今年1~6月も3127人が労災認定を受けた。
●「2人1組」に勤務してこそ安全」
環境美化員たちは、少なくとも道路で仕事をしたり、人通りの少ない時間でも「2人1組」で勤務させてほしいと要求している。2人1組で働けば、車が通り過ぎる時にお互いに「気をつけろ」と教えることができ、犯罪対応力も高まる可能性があるからだ。しかし、地方自治体が直接採用する公務職や清掃受託業者のいずれも、予算とコストなどを理由に2人1組の勤務を導入していない。
地方自治体公務職の労組関係者は、「環境美化員らに対し、1キロを越える路地の清掃を『一人で午前中に全て終わらせておきなさい』と言うこともある」とし、「地方自治体や外部委託業者共に、安全費用を追加で負担する意志がない」と指摘した。
専門家たちは、政府と地方自治体が乗り出して労働環境を改善しなければならないと指摘している。高麗(コリョ)大学労働大学院のキム・ソンヒ教授は、「外部委託の場合、最も低い価格を提示する業者を選んでおり、2人1組どころか、従来の人員も減らすほかはない状況だ」とし、「地方自治体が先に出て、『2人1組』を基準として提示する一方、基準に合致する業者が落札される方法に制度を変えなければならない」と話した。
イム・ジェヒョク記者 チェ・ウォンヨン記者 heok@donga.com