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怒りがお金になる社会が「私的制裁」を生む

怒りがお金になる社会が「私的制裁」を生む

Posted June. 11, 2024 08:37,   

Updated June. 11, 2024 08:37

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「私は何も悪いことはしていない」

2004年、慶尚南道密陽(キョンサンナムトミリャン)で起きた性的暴行事件をモチーフに10年後に公開された映画「ハン・ゴンジュ 17歳の涙」の主人公であるゴンジュが劇の冒頭で静かに発するセリフだ。ゴンジュは性的暴行の被害者である。この台詞は、絶対に保護されるべき被害者が、むしろ加害者の親に取り囲まれ、転校を強いられる状況で発せられる。実際の事件でも、加害者側がむしろ被害者を非難することがあったという。集団性的暴行だけでも到底許されない事件なのに、「2次加害」まで行われたのだ。いまだに人々がこの事件を脳裏から消えることなく怒りを覚える理由だ。

その怒りが、最近物議を醸している「私的制裁」の根源となった。事の発端は、とあるユーチューバーが自身のチャンネルにこの事件の加害者の身元と勤務先などを公開したことによる。このユーチューバーは「告訴されることを恐れずに、言いたいことをすべて話すチャンネル」と自身を説明した。また「被害者の家族が加害者の身元公開に同意した」とした。大衆は歓喜した。その後、このユーチューバーが加害者とその周辺人物と名指しした人々を対象とした「狩り」が始まった。

果たして正義は遅ればせながら実現されたのだろうか。現在までに確認された結果だけを見ると、むしろ私的制裁の限界がより目立つ。国の司法制度のように正確な情報に基づいてアプローチするわけではないので、無実の被害者を生むという問題がある。加害者のガールフレンドとしてネイルショップを運営していると指摘されたAさんが、全く無関係であることが判明したのがその代表的な例だ。店のレビューに殺到する悪評に耐えられなくなったAさんは、警察に陳情した。

さらに、被害者側の同意を得たという主張も事実ではないという反論があり、当該ユーチューバーの真意はさらに疑われている。事件の被害者を支援する韓国性暴力相談所は今月5日と7日、相次いで報道資料を通じてこのように指摘した。このユーチューバーが「被害者側と事前に調整したことは事実」としながらも、身元公開動画を削除してほしいという被害者側の要請を一部黙殺したことを認めた。

人々の怒りが遅まきながら正義を実現したのかは定かではないが、そのユーチューバーがお金を稼いだことは明らかだ。ユーチューブへの後援金が殺到しているからだ。少なくても1万ウォン、多ければ10万ウォンも目立つ。怒りがお金になったのだ。

その間、同じ事件を取り上げ、被害者の意思は考慮しないユーチューバーが続々と登場している。事件の被害状況が如実に記された判決文が公開され、ネット上に拡散しているのが端的な例だ。別のユーチューバーは「もし被害者の方がこの動画を見たら、視聴しないでほしい。明かされる内容には、被害者が想像もしたくないあの日の内容が含まれている」とし、事件に関連した資料をアップした。加害者と戦うと言って口座番号を公開するユーチューバーもいる。

映画の中でコンジュを取り囲んで転校を強要した加害者の親たちの2次加害が、今やユーチューバーに変わったというのは想像しすぎだろうか。この事件を題材にした映画が再び公開されたら、その時は加害者が性的暴行関連の人物だけではないだろう。