「おじさん、どうしてそんなに一生懸命石を叩くの」(ある少女)
「この岩はただの岩ではないんだ。岩の中には天使がいる。今眠っている天使を起こしているんだ」(クリス・ワイドナー『1日で人は変われる!』)
『1日で人は変われる!』は、16世紀にフィレンツェで活動した芸術家ミケランジェロが傑作を誕生させたストーリーを展開する。本に登場する、子どもの質問に対するミケランジェロの答えは、一見ナイーブにみえる。だが、現代人も膝を打つような人生と芸術に対する態度がうかがえる。
誰かにはただの岩だと通り過ぎる物体に、ミケランジェロは違うものを見た。岩の中に眠る天使を目覚めさせて自由にするために、天使ではない部分だけを取り除こうとしたのだ。艶やかな天使の肌を表現するために、何度も繰り返し整えた。生涯、石粉を吸い、芸術の魂を燃やした。これはむしろ崇高美と言えるだろう。ミケランジェロは、彫刻家である前に特別な洞察力の持ち主だった。
芸術の本質は何だろうか。私は何のために芸術家として生きているのか。単純で当然のようだが、簡単には答えることができない問いだ。
数年前、イタリアのフィレンツェのある空間で、石になった男の裸体に向き合った。その時の抑えられないときめきを覚えている。高さ5メートルに近い大理石の肉体。そこから吹き出るオーラ。「クリエイター」ミケランジェロの「ダヴィデ」だ。
ミケランジェロは岩に天使を見たように、ダヴィデも見たのだ。ミケランジェロは世のすべてを他人とは異なる視点で見て、新鮮な意味を与え、斬新的な結果物を造り出した。再び問う。芸術の本質は何か。恐らく死ぬまで続くこの問いに、ミケランジェロは本棚の中で、そしてフィレンツェの美術館で正解を与えてくれた。