スパルタは最強だ。ギリシャ戦争史、重装歩兵のシルエット、青銅の矛と盾がぶつかる音が好きな人はスパルタに魅了される。だが。ここで一度「最強」という言葉にメスを入れてみよう。
戦術的に分析するには、スパルタ軍が最強ということではなく、スパルタ軍が最強になれた要因を探らなければならない。基本的な要素として、地形、敵の兵種、戦術目標を挙げることができる。市街で青銅の隊列を形成し、軽歩兵や他都市の重装歩兵に対する戦闘なら、スパルタは最強だ。平原で重装歩兵どうし勝負しても最強かもしれない。軽歩兵が突破しようとしても、端から相手にならないだろう。
しかし、軽歩兵ゲリラ部隊を追撃してせん滅する作戦は、重武装した遅い重装歩兵には難しい。ギリシャは、いくら平原地帯でも、少し移動しただけで、岩山や石山にぶつかる。軽歩兵がその斜面を登る場合、追撃どころか敗北する恐れもある。斜面にある子どもの頭ほどの石が、重装歩兵の盾と甲に容赦なく落ちてくる。
砂漠で遊牧騎兵に会う場合、密集陣形を展開できない森でバーバリアンの戦士に囲まれる場合、スパルタのように、いやもっと優れた体格条件を備えて高度な訓練を受けた重装歩兵隊と対峙する場合・・・。スパルタ軍が弱い軍隊になる条件は数え切れないほど多い。
マキャベリは、傭兵は金のために戦い、市民軍は家族のために戦うと言った。フリードリヒ大帝はこの説を一言で反論した。市民軍も、浮浪者や落伍者で満たし、訓練と規律がなければ、傭兵と大差ない。
フリードリヒも認めたが、人々はマキャベリ式の言葉に簡単にだまされる。実状を見ず、言葉に価値を与えて性急に判断するためだ。自由、公正、正義、平等、税金、当然正しいと考えられる価値であればあるほど、正しく作動する環境、条件、方法を考えなければならない。石に黄金というラベルをつけたからといって黄金にはならない。