「同じ形の商店が、空地の間に不釣り合いに立ち並ぶ静かな通りを数分行くと、やっと彼が暮らす町が遠くに見えてきた。そして、住宅街に接する暗灰色の工場地帯と煙突の真っ黒な煙が見えた」。ここはまさに「遠くて美しい町」、小説家の梁貴子(ヤン・グィジャ)氏の連載小説に出てくる遠米洞(ウォンミドン)だ。ヤン氏が1987年に書いた「遠美洞の人々」には、ソウルから追い出された人々、資本の論理に傷ついた彼らが集まった「富川市(プチョンシ)遠美洞23番地」の話だ。あの時代は雨が降れば、遠美洞で最もよく言われた言葉があった。「妻なく暮らしても長靴なしでは暮らせない」。
◆韓国の中年以上の世代は、雨が降る日、地面が泥沼に変わり、歩くことすら大変だった「心の中の遠美洞」を1、2ヵ所ほど記憶している。1980年代初め、ソウル郊外に雨が降ると泥沼と化す路地があるのは欠点でもなかった。そのため、防水の長靴は農作業や肉体労働の時に履く作業用の靴であるとともに、貧民街の庶民には雨の日の必需品だった。
◆フランスの小説家シャルル・ペローが1697年に出版した童話集に「長靴をはいた猫」がある。粉引き職人だった父親が死ぬと、3人の息子の長男と次男はそれぞれ粉引き小屋とロバを受け継いだが、三男には1匹の猫だけだった。気を落とした三男に猫は長靴を買ってほしいという。猫は真っ赤な長靴を履いた後、驚くべき変身をする。利口に縦横無尽に活躍し、主人にハッピーエンドを贈る。
◆梅雨が始まり、ゴムやビニール材質の長靴を履いて出勤する女性を街でよく見かける。ブランド品は20万〜30万ウォン台、ある長靴は70万ウォン以上するが飛ぶように売れている。大金をはたいたためか、晴れた日も長靴をはいている人がいる。昔の人々が疲れた暮らしを暗示する長靴から抜け出すために努力したなら、今は「梅雨のファッション」を完成させる小道具でレインブーツを求める。生活必需品からファッション必需品に、長靴の出世には目を見張るものがある。
高美錫(コ・ミソク)論説委員 mskoh119@donga.com






