火災の起きた108階建ての住商複合ビル「スカイタワー」の鉄筋が溶け出す。すでにビルは片側に傾き始め、隣のツインビルを襲うのは時間の問題だ。より大きな被害を食い止めるための唯一の方法は、ビルを爆破させることだ。しかし、切羽詰った状態では意のままにことが運ぶことなどあまり無い。爆破装置を取り付けていた消防隊長のカン・ヨンギは、人を救助する過程で、爆破装置のリモコン(自動制御装置)を失くしてしまう。彼は、後輩隊員を含めた人たちを脱出路に向かわせた後、シャッターを下す。手で起爆装置を押し、自分は散華しようとする。泣き叫ぶ後輩隊員に向け、カン・ヨンギは語る。「私は君を救おうとしているわけではない。これから君が救う人たちを救おうとしているのだ」。目頭を熱くさせる名台詞だ。
◆映画の中の物語とばかり思っていたが、実際、カン・ヨンギ(薛景求)のような消防士がいた。京畿(キョンギ)一山(イルサン)警察署・チャンハン119安全センター所属のキム・ヒョンソン消防長(43)。昨年12月31日、京畿高陽市(コヤンシ)一山西区龜山洞(クサンドン)PVC物流倉庫で起きた火災を消火する過程で、後輩消防士二人を先に脱出させて鎮圧に乗り出していたが、倉庫の建物が崩れて死亡した。20年目のベテラン消防士だったキム消防長は、危険な状況を直感し、まだ経験の足りない後輩らの背を押して命を助けた。豊富な現場経験や強い責任感がなければできない、身を殺して仁をなすことだ。
◆消防士らのように、この世とあの世との分かれ道に立たされている職種も稀だ。「タワー」を制作したキム・ジフン監督も、「彼ら(消防士)は、皆が逃げ出すところに入り、平均寿命も最も短い職種だ」と語った。兵士の死亡率も、消防士ほど高くはない。韓国では年平均6.9人の消防士が、火災や救助現場で死亡している。負傷者は毎年340人あまり。キム消防長が救った後輩消防士2人も2度の火傷を負った。負傷の苦しみも、死に劣らないほど激しい。身体的苦痛はもとより、深刻な外傷後ストレス障害を経験する。おぞましい火災現場を目撃した消防士の多くは、幻聴や悪夢にさいなまれる。
◆多くの消防士のつくえの上には、スモーキー・リンという米消防士の書いた「消防士の祈り」が張り付いている。「神よ、私が召されたときは、炎が燃えさかるいかなるときにも一人の命を救うことができる強さをわれに与え賜え。(中略)神よ、私の兄弟が墜落したら、私をそのそばにいさせてください」。エゴの属性を持っている人間に崇高なことをやらせる動力は、果たしてなんだろうか。金や名誉がほしければ、消防士は適していない。「英雄」扱いを受ける米国とは違って、韓国の消防士は待遇も低い上、ことごとく批判を受ける。にもかかわらず、消防士らは今日も、黙々と自分のいるべき場所に向け出動している。誰かから認められても、認められなくても。映画の中から出てきたような「本物の消防士」故キム・ヒョンソン消防士の冥福を祈る。
鄭星姬(チョン・ソンヒ)論説委員 shchung@donga.com






