教育は、もともと、私教育から始まった。古代ローマの富裕層は子供を教えるためにギリシア人の家庭教師を雇った。韓国の伝統教育は両班(貴族)階層で父親が息子に字を教えたり、良い師匠に子供を任せたりするやり方で行われた。庶民や貧しい人々は、教育の恩恵から遠ざけられた。このような「金持ちはますます金持ちになり、貧乏人はますます貧乏になる」構造を変えたのは、18世紀の産業革命だった。大量生産のために教育を受けた大量の人材が急に必要とされた。庶民にも教育を受ける機会が開かれた。
◆光復(クァンボク=日本植民地支配からの独立)直後、韓国の国民のうち、正規の学校教育を受けた人は、全人口の25%に過ぎなかった。75%は、学校に近寄りもしなかった。さらに過去にさかのぼれば、近代学校の始まりである培材(ペジェ)学堂と梨花(イファ)学堂はそれぞれ1885年、1886年に設立された。韓国の近代教育の歴史はたかだか120年余りで、それさえも、大衆に恩恵が与えられてからは、数十年しか経っていない。
◆教育が普遍化するにつれ、人々はやっと希望を抱くようになった。韓国は教育による社会的身分上昇がよく行われた国だったが、今は違う。「貧しい家の子のほうが、勉強ができる」という話は昔話になった。長年の平準化政策で学校間の競争がなくなったためだ。最近、地方大学は新入生が集まらず非常事態となったが、中・高校は何の心配もない。「親切な政府」が自ら生徒を送り、予算の大部分を支援する。懸命に教えなくても不利益はない。どうせなら楽な方を選ぶのが人間の本性だ。
◆このような時に、父兄は自救策としての私教育を求めるか、目を外に向けて留学させるかする。どちらもできない貧しい家では息ばかりが高まる。これが最近の、教育危機の一面だ。米ニューヨーク市が、学生たちの成績の悪い学校を閉校することを決めた。韓国も「良い学校」と「悪い学校」を選り分ける時期に来ている。ところが政府は、父兄からそれなりに「良い学校」と言われている特別目的高校、自立型私立高校を廃止しようと躍起になっている。後世の将来を切り開くべき学校が無能なのは罪悪だ。
洪贊植(ホン・チャンシク)論説委員 chansik@donga.com