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矛盾した思考の罠

Posted January. 30, 2023 08:29,   

Updated January. 30, 2023 08:29

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「もう大丈夫。全てがわかったのだ。苦闘は終わりを告げた。彼は自らを克服することができたのだ。彼は今、ビッグ・ブラザーを愛していた」(ジョージ・オーウェル『1984』)

この小説の主人公ウィンストン・スミスは独裁権力「ビッグ・ブラザー」に立ち向かい、拷問と洗脳の末、抵抗の意志を曲げる。ジョージ・オーウェルの最後の作品であるこの小説は、規律と監視を内面化し、自発的に服従させる権力の属性を見抜き、時代を越える古典の仲間入りをした。周囲で見かける権力に従う姿を見てみよう。抵抗する力がないために意に反して従う姿より、不利益を避けたり利益を得たりするために自ら頭を下げる姿が目につくのではないか。この小説の最後の文に込められたオーウェルの洞察は、今日でも有効で強烈で不気味だ。オーウェルは、この小説を通じて、矛盾する2つの信念を同時に受け入れる「二重思考(doublethink)」の概念を説明し、その矛盾を警戒した。

年明けに出版社「創批」が、張康明(チャン・ガンミョン)作家の散文集の原稿で自社に批判的な内容の修正を求めたというニュースを見た。ある書店のウェブ連載を通じて既に公開されていた文に修正を要求したというのは呆れたことだ。先日、実践文学社がセクハラ疑惑で活動を中止していた高銀(コ・ウン)詩人の復帰作を出版したが、逆風を受け、作品の書店への供給を止めるという騒動が起こった。

私も二重思考の罠に陥ったことを告白する。抵抗意志を曲げることは私も経験した。文学界を揺るがす昨今の事態について一言語ろうとSNSを開いたが、慎重に関連記事だけを共有したのだ。出版社と一緒に作業することがあるかもしれないと考えて。

韓国社会はどうだろうか。オーウェルが『1984』を出版した1949年から74年、オーウェルが想像した未来のディストピアである1984年から39年が流れた現在の私たちは、果たして矛盾した思考から抜け出したと言えるだろうか。