「主権国家で構成される国際社会において、合意はすべての当事者がそれを自らの利益にかなうと考える場合にのみ維持される」
米国のリアリズム外交の巨匠として知られるヘンリー・キッシンジャー元国務長官は、著書『激動の時代』で外交の本質をこのように説明した。外交の成否は、相手をどれだけ早く屈服させるかではなく、時間が経過しても維持できる合意の枠組みをいかに精緻に設計するかにかかっているという意味だ。華やかな瞬間より重要なのはその後だ。劇的な場面が一度きりのイベントで終わるのか、それとも持続可能な秩序へとつながるのかは、結局のところ管理と調整の能力によって決まるとキッシンジャーは説いた。
トランプ米大統領の外交は、その点でキッシンジャー流の外交とは異なる軌跡を描いてきた。合意が長続きする構造を築くことよりも、序盤で相手を動かし、局面を覆すことに重点を置いている。
国際問題に取り組むたびに、トランプ氏の登場は常に華々しかった。複雑な利害が絡む問題に対しても、持ち前のストレートな話法で一気に解決できるかのような自信を示した。従来の政治家が数カ月、時には数年かけて取り組む課題であっても、トランプ氏は数日で世界のニュースの中心へと押し上げた。
代表的な例が、大統領選挙中に掲げた「就任後24時間以内にウクライナ戦争を終結させる」との公約だ。昨年の就任直後、トランプ氏はロシアとウクライナの首脳と相次いで接触し、終戦が目前に迫ったかのような雰囲気を演出した。しかし今や、誰も戦争の終結を語らない。その代わりに残ったのは、ロシアとウクライナの異なる戦略目標、欧州諸国の利害、安全保障秩序の再編という複雑な現実だけだ。そして両国の軍事衝突も依然として続いている。
最近のイラン問題も似た構図だ。トランプ氏は強力な軍事的圧力によってイランを交渉のテーブルに引き出すことには一定の成功を収めた。しかしその後に残されたのは、制裁解除、核開発計画の制限、地域内の勢力均衡、同盟国の懸念といった複雑な課題だ。
第1次トランプ政権時代の米朝首脳会談も、「竜頭蛇尾」の外交だったとの評価が少なくない。現職の米大統領と北朝鮮の最高指導者が初めて向かい合って座るという事実に、当時世界は韓半島平和の転換点を期待した。しかし結果はハノイでの交渉決裂だった。非核化と制裁緩和を巡る具体的な工程表や、それを実行する相互信頼が伴わなかったため、歴史的な場面は持続可能な合意へとつながらなかった。
不動産開発業者出身のトランプ氏は、自らを優れた交渉人だと強調する。実際、交渉力を最大限に発揮して相手に迫り、有利な条件を引き出すことに長けているとの評価もある。しかし外交は不動産契約とは異なる。契約書は署名した瞬間に終わるが、外交はそこから始まる。
国際政治は勝者総取りのゲームではない。相手が完全に敗北したと感じた瞬間、合意はかえって揺らぎかねない。細部の条項を調整する技術、利害関係を管理する忍耐、相手が合意を自らの成果として受け入れられるようにする政治的余裕――これらが外交に不可欠なのはそのためだ。トランプ氏は交渉の入り口では鋭い瞬発力を示したが、その後の管理能力については、まだ十分に証明したとは言い難い。
トランプ氏のホワイトハウス執務室の机の上には、昨年6月にイランの核施設3カ所を攻撃した「B-2爆撃機」の模型が置かれている。トランプ氏はその模型を眺めながら、たった一度の攻撃で戦略的優位を確保した高揚感を満足げに思い返しているかもしれない。しかし今の彼に必要なのは、「外交官の古びた手帳」ではないだろうか。複雑に絡み合った利害関係を一つひとつ解きほぐし、各国を同じ交渉のテーブルにつなぎとめ、合意が崩れないよう粘り強く管理するために何度も開く、自分だけのメモ帳が必要だということだ。
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