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「ジュエ氏後継説」で試される国家情報院の対北情報力

「ジュエ氏後継説」で試される国家情報院の対北情報力

Posted April. 10, 2026 09:00,   

Updated April. 10, 2026 09:00


北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記の健康不安説が広がっていた2008年9月12日。韓国政府高官が「(正恩氏は)自分で歯磨きができるほど回復した」との情報を流した。実際、脳出血で重篤だった金正日氏は回復し、3年後の11年12月に死亡した。側近でなければ把握できない金正日氏の動静が公開されたことを巡り、高級情報源を危険にさらしたとの批判が噴出したが、一方で北朝鮮の最高機密を把握できるほど高度なヒューミント(HUMINT=人的情報)が存在したということは印象的だった。

最近、国家情報院(国情院)は金正恩(キム・ジョンウン)総書記の娘ジュエ氏を事実上の後継者と指摘した。李鍾奭(イ・ジョンソク)国情院長は国会情報委員会で、ジュエ氏について「後継者内定段階」と判断した根拠を問われ、「単なる状況判断ではなく、信頼性のある情報に基づいたものだ」と説明したという。

この説明は、ジュエ氏後継者説の背景にヒューミントや通信傍受など複数の情報があることを示唆する。北朝鮮指導部の動向や後継構図の分析には、高度なヒューミントによるクロスチェックが不可欠だ。国情院に30年間勤務したチョン・イルチョン元局長も過去のインタビューで「すでにかなり前に、正恩氏が軍の高位級将校らの前で『今後忠誠を尽くすべき人物だ』としてジュエ氏を後継者のように紹介したとの情報があった」と明らかにしている。

北朝鮮の後継構図を巡る国情院の判断に疑問が相次ぐ背景には、対北朝鮮ヒューミント能力の低下があるとの指摘もある。対北朝鮮業務に関わる政府関係者や専門家は「現在の対北ヒューミントは事実上空白状態だ」と口をそろえる。政権交代のたびに対北朝鮮政策の基調が変わるため、ヒューミントへの長期的な管理・投資が行われてこなかったというのが共通の診断だ。加えて、コロナ禍による北朝鮮の国境封鎖や、24年の情報司令部「ブラック要員」名簿流出事件などで情報網は大きな打撃を受けた。「12・3非常戒厳」の影響で軍情報機関の機能が縮小したことも影響している。ある北朝鮮事情に詳しい消息筋は「現在はヒューミント自体が崩壊状態で、主要な情報拠点である中国東北3省でも活動が難しい」と語った。

スパイや工作員とも呼ばれるヒューミントは人的ネットワークで情報を収集するためリスクが高い。情報源の身元が露呈すれば、長年かけて築いたネットワークが一瞬で崩壊したり、逆利用されたりする恐れもある。それでも人工衛星や偵察機などの先端装備による「テクイント(TECHINT=技術情報)」、北朝鮮内部の通信の傍受で得る「シギント(SIGINT=信号情報)」の重要性が高まる中でも、「生きた情報」であるヒューミントの重要性は依然として高い。最近の米国とイスラエルによるイラン空爆でも、長年蓄積された情報網とヒューミントが標的特定に決定的な役割を果たしたという。

韓半島の平和共存プロセスを推進する李在明(イ・ジェミョン)大統領は昨年12月、外交部と統一部の業務報告で忍耐強い対北政策を強調する一方、「南北関係には針の穴ほどの余地もない」と述べた。針の穴を見いだす出発点は情報力にある。いかに技術が進歩しても、核心情報の最後のピースは結局「人」にかかっている。