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「ペースメーカー」李在明政権のスピード違反

「ペースメーカー」李在明政権のスピード違反

Posted September. 30, 2025 09:35,   

Updated September. 30, 2025 09:35


北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記とトランプ米大統領が過去3回の首脳会談の前後に交わした27通の親書は、改めて読み返しても気恥ずかしいほどだ。華麗なへつらいのレトリックで満ちた正恩氏の手紙の中には、時折、真剣な本音が表れた部分がある。その一つが、露骨な「通米封南」の意図を示した2018年9月21日付の手紙だ。「文在寅(ムン・ジェイン)大統領がわれわれの問題について示している過剰な関心は不要だ」として、トランプ氏と2人だけで核問題を話し合いたいと書いている。南北関係が急進展していた時期ですら、韓国を外して米国と直接取引をしようとする意図がありありと示されている。

第2次トランプ政権で正恩氏に対することになった李在明(イ・ジェミョン)大統領も状況は変わらない。韓国にはもう見向きもしないと言わんばかりに「敵対的2国家」を叫ぶ正恩氏の無視と冷遇は、今後さらに強まるだろう。これを知らぬはずのない李政権の外交安保チームは、韓国大統領の役割を「ペースメーカー」と規定した。北朝鮮への影響力の強いトランプ氏に主導権を握らせ、呼吸を合わせて支えるというのだ。

米朝関係レースのスタートラインに立ったトランプ氏は、まだ本格的に動き出してはいない。正恩氏と対話する意向は示したが、今はウクライナ戦争や関税交渉に神経を集中している。慶州(キョンジュ)でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を機に、トランプ氏と正恩氏がサプライズ会談を行う可能性は排除できないが、双方から具体的なシグナルは確認されていない。

ところが、李政権の対北政策からは早くも焦りが感じられる。保守政権が封じていた対北融和策を、出だしから次々と解禁する構えだ。対北ビラ禁止や拡声器放送の中止は、接境地域に住む住民への被害を考えれば理解できるとしても、与党関係者は9・19南北軍事合意を年内に復元すると声をそろえる。DMZ周辺での韓国軍の偵察・監視活動や実弾射撃訓練を制限し、北朝鮮に対する備えを弱体化させると懸念されてきたものを、無条件で復活させようというのだ。軍事分野の権限も持たない鄭東泳(チョン・ドンヨン)統一部長官は、射撃訓練や実動訓練の中止の必要性を公の場で口にした。

李氏が国連総会で発表した「ENDイニシアチブ」は、非核化ロードマップで段階的な交渉カードとして使ってきた北朝鮮との交流(Exchange)と関係正常化(Normalization)をごちゃ混ぜにしてしまった。さらに、ニューヨークで投資家と会った際には、対北朝鮮制裁の一部を先に緩和できるとの考えも示した。もはや棚上げ状態に見える非核化(Denuclearization)は後回しにして、目に見える北朝鮮との関係改善の成果を先に出そうという姿勢だ。

自主派の元老たちは、こうした動きすら遅いと急かしている。李鍾奭(イ・ジョンソク)国家情報院長らとともに「自主派6人会」メンバーである丁世鉉(チョン・セヒョン)元統一部長官は、「大統領周辺に同盟派が多すぎる」と述べ、外交安保ラインの側近改革を要求した。発足100日を少し過ぎたばかりの政府の国家安保室の核心当局者たちが本ゲームを始める前から揺さぶる意図は何なのか。丁氏の表現通りに言えば、それこそ李氏の対北政策を破綻させかねない。

マラソンでペースメーカーの核心はスピード調整だ。目標タイムに合わせて一定のペースを維持するのが役目だ。序盤から飛ばしすぎれば選手の体力を消耗させ、レース全体を壊す危険がある。北朝鮮の非核化という長期レースではなおさらだ。予測不可能なトランプ氏が突然スパートをかけるかもしれない状況で、韓国がそれより先に飛び出すべきではない。