
1965年、米アイオワ州のある田舎町。イタリア出身のフランチェスカは、第2次世界大戦時に派兵されてきた夫のバッドと結婚し、故郷を離れた。平和だが単調な日常を送っていたある日。バッドが息子のマイケルと娘のキャロラインを連れて、イリノイ州の農業博覧会に参加するために家を空ける。久しぶりに一人だけの時間を過ごせることに浮き立つフランチェスカの前に、「見知らぬ男」が現れる。
1日、ソウル江南区(クァンナムク)の光林(クァンリム)アートセンターBBCHホールで開幕したミュージカル「マディソン郡の橋」のあらすじは、多くの人に馴染み深い。ミュージカルに限っても、韓国での公演は2017年、18年に続き3回目だ。原作は世界で5千万部以上売れたロバート・ジェームズ・ウォラーの小説(1992年)。1995年にクリント・イーストウッドがメリル・ストリープと共演した同名映画はさらに有名だ。そして、その馴染み深さこそが、この作品が持つ最高の武器だ。
見知らぬ男は「ローズマン橋」を撮影するためにマディソン郡にやってきた写真家のロバート・キンケイド。フランチェスカは道を聞く異邦人ロバートを親切に迎え入れる。やがて世界を旅するロバートの人生に好奇心を抱き、徐々に親しくなっていく。ロバートも、優しく思いやりのあるフランチェスカにますます惹かれていく。「曖昧さに囲まれたこの宇宙で、こんな確かな感情は一度しか訪れない」(ロバート)
この作品は、いくら美しく包み込んでも不倫を描いている。しかし、登場人物の物語が説得力を持つことで、拒否感をいくらか和らげる。若い頃、画家を夢見ていたフランチェスカは、故郷を離れてから母であり妻として生きてきた。時代背景から考えると、これは完全な彼女の選択というよりは、社会的規範と責任に抑圧された結果に近い。ロバートと出会い、本当の「私」を見つけたと生気を取り戻したフランチェスカが、切なくも愛おしく感じられる理由だ。
今回の公演は、信頼できる俳優たちが出演しており、さらに注目が集まる。フランチェスカ役はチョ・ジョンウンとチャ・ジヨン、ロバート役はパク・ウンテとチェ・ジェリムが務める。主演の演技の呼吸がよく調和し、作品への没入度を高めている。愛の限界を悟る場面は、ただ切なく歌い上げるが、明るく茶目っ気のある恋人の姿は軽快に表現されている。爆発的な愛の感情を表現する時も抑制された演技を見せる点は、ありきたりな情事劇とは一線を画すポイントとなっている。
美しい水彩画のように飾られた舞台も、2人の愛を切なくさせる装置だ。太陽が照りつけるトウモロコシ畑と素朴な丸太小屋は、牧歌的な雰囲気を醸し出す。「One Second and a Million Miles」など、叙情的なナンバーも耳に心地よい。オーケストラにはグランドピアノが配置され、豊かな旋律を奏でる。7月13日まで。
サ・ジウォン記者 4g1@donga.com