
ケベック州一帯のメープルシロップの生産農家は、シロップの生産からさらにメープルシロップを地元の料理や文化遺産と結び付けた体験型事業で観光客を引き込み、収益を高めている。まさにケベック地域の独特な伝統文化である「シュガーシャック(Sugar Shack=砂糖小屋)」を通じてだ。
1850年代から登場したとされる砂糖小屋は、メープルシロップの生産がピークに達する早春、家族全員が雪に覆われた森で一日中働き、夕方に集まって一緒に酒と食べ物を分け合って食べながら休息を取った文化から始まったという。
今もケベック州のカエデ森の一帯には、100個余りの砂糖小屋が存在するが、その大半はカエデ樹液の採取が行われる3月に集中的に運営される。この時期に砂糖小屋を訪問すれば、作りたてのメープルシロップを雪の上に注ぎ、木の棒にくるくる巻いてキャンディーのように固めて食べる「メープルタフィー」を経験できる。メープルシロップを使ったパンケーキやクレープなど、様々なケベック伝統料理も提供される。砂糖小屋の隣のカエデの森で、訪問客は直接カエデの樹液の採取過程を観察し、生産者から話も聞くことができる。一部の砂糖小屋は、鉄の釜にカエデの樹液を注ぎ、薪を焚いてメープルシロップを作る伝統方式を実演するかと思えば、カエデの森での散歩や馬車体験など多様な活動を提供しているため、この時期のシュガーシャックには家族連れの観光客が絶えない。
ケベック州は、2020年にメープルシロップ生産100周年を記念したのに続き、2021年はカエデの樹液採取シーズンを文化遺産法に基づいてケベックの公式無形文化遺産に指定した。また、メープルシロップの歴史と生産を小学校の教育課程で扱い、地域の森資源が産業を越えて教育と共有遺産につながるようにしている。地域の技術学校に進学する生徒たちは、メープルシロップの生産資格証も取ることができる。
ケベック州は昨年、カエデをケベック文化とアイデンティティの象徴として公式化するため、10月第3日曜日を「国立カエデの日」と宣言する法案を採択したりもした。この日は、カエデとカエデシロップの生産、カエデ製品に関するすべてのことを記念する。ケベックの文化、社会、料理、歴史でカエデの森が持つ意味を強調するためだ。