大統領権限代行の韓悳洙(ハン・ドクス)首相が大統領固有の権限である憲法裁判官候補を指名したことに対し、憲法裁判所が効力停止仮処分申請を認めたことを機に、韓氏の大統領選出馬が不透明になっている。韓氏が憲法裁の決定に立場を表明せず、自身の進退について沈黙しているため、与党「国民の力」内部からも「国民の間に混乱が生じている」との指摘が出ている。
事実、韓氏のこれまでの態度には、大統領選まで50日も残っていない政府交代期に、選挙を公正に管理し、国政を安定的に維持しなければならない権限代行の責任感は見られなかった。韓氏は、弾劾棄却後の復帰の弁で「もはや左も右もない」「憲法と法律に従う」と述べたにもかかわらず、尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領の側近を大統領推薦の憲法裁判官に指名するという無理な手を打った。「国民の力」からの大統領選擁立論が出ているにもかかわらず、立場を明らかにしないまま、慶尚道(キョンサンド)・全羅道(チョンラド)地域を訪問するなど広範囲に動いた。そうしておきながら、憲法裁の決定が出ても、何の言葉も立場も表明していない。
韓氏が自ら招いた不信は、関税交渉の信頼にも影響を与えざるを得ない。来週に迫った米政府との関税交渉は、経済・通商構造はもとより、国家安全保障の枠組みまで揺るがしかねない重大な事案だ。政派やイデオロギーを超えた国民的信頼の裏付けなしには成し遂げられない難題だ。交渉が90日間の猶予期間を確保したので、最初のステップは韓代行体制が踏み出し、約40日間は次期政府がバトンを受け継いで締めくくるようにしなければならない。韓氏の出馬説が続く状況では、最終交渉の方向性を見極める初期交渉が政治的意図を疑われ、国論が分裂することは避けられないだろう。ともすれば、過渡期政府の限界に目を向けず欲を出して急げば、交渉を台無しにしかねないという世間の視線を肝に銘じる必要がある。
17日に発表された世論調査では、韓氏の大統領選出馬について「望ましくない」との回答が66%で、「望ましい」との回答24%を大きく上回る結果が出た。特に、中道層では77%が望ましくないと答えた。韓氏が安定的な国政管理の責務を十分に果たしていないという世論が反映されたものと見ることができる。これ以上の曖昧な振る舞いは、ただでさえ混乱している政局をさらに混乱させかねない。自ら「不信の目」に転落することなく、公正な選挙管理者、国政の安定的な運営者、関税交渉の指揮者として本来の任務を果たすことが、権限代行としての責務であり、道理だろう。
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