青い部屋の中に青いワンピースを着た少女が青い椅子に座っている。テーブルの上に置かれた本の表紙も青色で、壁に掛けられた絵の中の聖母も青い服を着ている。大きな窓から強烈な日差しが降り注ぐ中、少女は気にすることなく編み物に集中している。
アンナ・アンカーが描いた「青いラウンジと陽光」(1891年・写真)は、このように青色で溢れている。アンカーはデンマーク最北端の漁村スケーエン出身で、当時最も革新的な画家とされる。絵の中の部屋は、アンカーの母親が実際に使っていた部屋で、少女は当時8歳だった娘のヘルガだ。1870年代からスケーエンに北欧の画家たちが集まり始め、芸術の共同体が形成され、「スケーエン派」と呼ばれた。彼らが滞在していたスケーエンの唯一のホテルが、アンカーの家だった。
アンカーの母親は、夫と共にホテルを経営しながら6人の子どもを産み育て、特に末っ子のアンカーに献身的だった。女性は正規の美術教育を受けることも、画家になることも難しい時代だったが、美術に才能のある娘を私立の美術学校に通わせ、パリにも留学させた。娘が仲間の画家ミカエル・アンカーと結婚して出産した後は、娘の作業時間を確保するために家族での食事をホテルで済ませ、孫娘の育児も手伝った。そんな母親の献身のおかげで、アンカーは結婚後も精力的に活動することができた。絵の中のヘルガは、祖母から習った編み物に夢中になっているようだ。そんな子どもの姿を、画家である母親は温かな眼差しで捉え、キャンバスに収めた。平凡な日常のシーンなのに、さまざまな青のバリエーションが魅力的だ。
強い日差しが差し込む窓の外は、この少女がこれから進む世界への暗示なのだろう。壁に掛けられた絵の中の聖母の体が子どもに向いているのは、娘を守ってほしいと願う母心だろう。ヘルガは成長し、デンマーク最高の美術大学に進学し、母親に続いて画家となった。祖母と母の愛と献身のおかげだった。
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