文学担当記者は毎年12月になると、電話で新春文芸の応募者に当選を知らせる。顔を合わせることはできないが、声を聞けばおおよその年齢が推測できる。今年は特に受話器の向こうから聞こえてくる声に重みがあった。震える声を堪えながら「本当ですか」と何度も尋ねる当選者も、「待っていた」と淡々と答える当選者もいた。しかし、皆が長い間文学の道を夢見てきたということはすぐ分かった。
「60歳、私はまたゴマの花になって」は随筆「シルバー就活生の奮闘記」で2021年毎日新聞のシニア文学賞ノンフィクション部門に当選した著者の遺稿集だ。著者は幼い頃、貧しかったため友人の家で「泥棒読書」をした文学少女だった。高校卒業後は生計のために工場で働いて「コンスニ(工場労働の女性を蔑んで言う言葉)」として生きなければならなかった。宗家に嫁いだ後、家族のために生き、夫と熟年離婚をした後、本格的に執筆を始めた。基礎生活保障の受給者であるほど生活苦に苦しみ、心臓病と聴覚障害も患ったが、書くことをあきらめなかった。
この本では人間に対する愛情が際立つ。著者は20年余りをホスピス癌病棟で働いた経験を打ち明け、「毎日痛みと死闘を繰り広げる患友さんを見て、自分の苦痛は何でもないことに気づいた。自分を捨てようとしたのは贅沢だった」と告白する。江原道(カンウォンド)に小さくて古い家を買って引っ越した後、90歳を過ぎた隣のおばあさんから小遣いをもらって「古い紙幣からおばあさんの匂いがした。名節(正月と旧盆)に帰ってきた子供たちからもらった小遣いだろう」と描写している。
本には著者の娘が書いたエッセイも載っている。著者は2021年7月、シニア文学賞受賞の報を聞いてから1カ月後の同年8月に亡くなったという。その後、「シルバー就活生の奮闘記」がソーシャルネットワークサービス(SNS)を通じて話題になった。彼女の娘は著者がこれまでの作品の出版を望むだろうか悩んだが、出版を決心した。「シルバー就活生の奮闘記」には数多くの応援コメントが寄せられたからだ。著者の娘はこう告白する。
「読者は、苦労の絶えない人生にも母親が守り抜いたまっすぐな心と暖かい眼差し、特有のウィットと希望を読み取ってくれました。また、母親のエッセイを通じて自分の人生を振り返り、近所の人に目を向け、『人生』と『人』についてもう一度考えることができたと心からの追悼の言葉を伝えてくれました」
今年、東亜(トンア)日報の新春文芸の受賞者の平均年齢は47.9歳だ。2022年(37.4歳)、2023年(34.8歳)より10歳以上高い。個人的には、今年の当選作には文学に対する真摯な心が込められているような気がした。人生を経験してないと語れない話も多かった。もちろん、高齢の当選者が執筆で生計を立てることができるか、これからも執筆を続けるかどうかは分からない。ただし「シルバー就活生の奮闘記」の著者が書いたエッセイが読者の追慕に力づけられ、散文集として出版されたように、読者の応援が当選者らを「本物の作家」に成長させることを願う。
イ・ホジェ記者 hoho@donga.com