アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、サウジアラビア、バーレーン、オマーン、クウェートは「現代版中東のオアシス」とされる。湾岸諸国と称されるこれらの国々は、豊富なオイルマネーを背景に高度な経済インフラを築いてきた。アジア、アフリカ、欧州を結ぶ地理的特性を生かし、国際物流、金融、コンベンション、航空の拠点として発展してきた。かつての砂漠のオアシスのように、中東で人、金、物資が集まる地域となっている。
米国との緊密な安全保障協力を通じて「中東の安全地帯」という国家ブランドを築いたことも、湾岸諸国の成長を支えてきた。実際、これらの国々は他の中東諸国に広がるテロや戦争とは無縁だった。
しかし、先月28日(現地時間)に始まった米国・イスラエルとイランの戦争は、湾岸諸国が積み上げてきた「豊かで安全な国」という認識を大きく損なわせた。
湾岸諸国は戦争当事者ではない。にもかかわらず、国内に米軍基地や関連施設があることを理由にイランの攻撃対象となった。中でも「中東のハブ」として最も積極的に機能してきたUAEの被害は大きい。17日、UAE政府によると、開戦後、イランから計319発のミサイルと1627機のドローンが飛来した。大半は迎撃されたものの、事実上戦場となった。
UAEが集中攻撃の標的となった背景には、米軍基地の存在に加え、過去のイランとの領土紛争がある。また、湾岸諸国の中でバーレーンとともに2020年にいち早くイスラエルと国交を正常化したことも理由とされる。外国企業や投資誘致で先行するUAEを狙い、戦争への恐怖を拡散させる狙いがあるとの見方もある。
カタールとオマーンは「中東の外交拠点」を掲げ、積極的な仲裁外交を展開してきた。両国ともイランと良好な関係を維持している。カタールはペルシャ湾の世界最大の海洋天然ガス田をイランと共有し、親イラン武装組織ハマスの事務所も首都ドーハに置かれている。オマーンは今年1~2月に行われた米イラン核協議を首都マスカットやスイス・ジュネーブで仲裁した。しかし、こうした「特殊関係」にもかかわらず、カタールは米軍基地、オマーンは米軍関連施設の存在を理由に攻撃を免れなかった。カタールでは戦争初期から「経済の中枢」である天然ガス関連施設が攻撃されたことへの怒りが強い。
重要なのは、イランのドローンとミサイルが湾岸諸国の現在だけでなく、これらの国々、ひいては中東の未来にも大きな傷を残している点だ。
湾岸諸国は近年、オイルマネーを背景にエネルギー分野にとどまらず、人工知能(AI)、宇宙航空、金融、コンテンツ産業の育成を進めてきた。海外留学などを経験した開放的な思考を持つ若い指導者の台頭もあり、この流れはさらに強まる傾向にあった。こうした動きは長期的に中東の産業構造を多角化させ、社会や文化をより開放的に変える契機になると展望されていた。世界的な企業にとっても新たなビジネスチャンスと受け止められ、貧しい中東の非産油国にも波及効果が期待されていた。
しかし今回の戦争により、湾岸諸国は「未来ビジョン」を語る前に、「潜在的な安全保障リスク」に対する不安と疑念の解消を迫られる状況に陥った。戦後もしばらくは投資や企業、人材の流入を期待することはできないと見通されている。戦争が長期化すれば、湾岸諸国の大規模な未来ビジョンの見直しは避けられないとの指摘もある。さらに、湾岸諸国が中東で持つ政治・経済的影響力の大きさを踏まえると、中東全体に負の影響が広がるとの懸念も強い。戦争の長期化の可能性、そしてイランによる湾岸諸国への攻撃を注視せざるを得ない理由がここにある。
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