家族の悲劇的な死を経験した母子は、罪悪感に苦しむ(短編「声」)。「自分を責める瞬間、自分に対する拷問が止まらないことを知っているので」絶えず責任を他人に転嫁する。人間は矛盾していて、弱い存在だ。
作家が2018年以降発表した短編小説8本をまとめたこの小説集の主人公たちは、要領がなかったり、鋭敏で厚かましくない人々だ。不当な待遇を受けても抗議できなかったり、最後の電話を断って罪悪感に苦しむ人々、自分に目をつぶってそのまま見過ごすことができない人々だ。短編「空き家」では、暴力的な騒音が彼らを苦しめる。夫の出張が長引く間、夫の実家の家族が家に居座り、ついにカラオケ機器まで持ち込んでうるさく歌を歌うと、「彼女」は逃げるように家を出る。また別の主人公「私」は、幼い頃、カルト宗教に陥った両親によって、いつも幽霊のうなり声が聞こえる部屋に閉じ込められていなければならなかった。「私」は、人生の最後が近づいてきたという気がすると、昔の家を訪ねて行くが、家は再開発地域の空き家になっている。追い詰められた2人が入って、空き家は空き家でなくなる。
主人公たちは、「愛さえ差別を作り出す」逆説的な世界に置かれている(短編「心の浮力」)。旧約聖書で、ヤコブは双子の兄「エサウ」のふりをして、父親の長男への祝福を盗んでいくが、小説で弟は、不本意ながら兄を疎外させた立場が苦しいだけだ。死んだ兄と自分を混同する母親の前で、弟が見せる演技は、小さな救いのシグナルだろうか。その役割は、誰が与えたのだろうか。
不条理な世界が平気に見えるのは、実は忘却のためだ。ひき逃げの交通事故や民間人虐殺のような悲劇が起きたことさえ忘れて生きる人々の中で、まともに精神を持って生きる人は「狂った女」になるだけだ(短編「消火栓のバルブを回すと水があふれた」)。
著者は、「作家の言葉」で、「ため息もなく、悲しみ言い訳もなく哀悼する人になろうと思う」と話した。登壇してから42年になる作家の重い主題の意識と繊細な文章が、広げた本をなかなか手放せないようにする。
趙鍾燁 jjj@donga.com