
肖像画を描く時は、モデルの正面や横顔を描くことが多い。しかし、デンマークの画家ヴィルヘルム・ハマスホイは後ろ姿を描いた。彼の絵の中の人物は、最小限の家具だけの室内で背中を向けているため、正体も表情も分からない。画家はなぜモデルの後ろ姿を描いたのか。
コペンハーゲン出身のハマスホイは、詩的で静かな灰色のトーンの肖像画と室内画で有名だ。イギリス・ロンドン、フランス・パリなど外国にも行ったが、故郷のコペンハーゲンで生涯暮らし、自分の家と周囲の風景を描いた。この絵は、1898年から11年間暮らしたストランドゲード通り30番地のアパートの室内画だ。木の椅子に座った女性は、右腕を背もたれに軽くかけて、ゆったりした姿勢をとっている。テーブルの上には花模様の白い器が置かれている。後ろ姿なので、メイドなのかブルジョア女性なのか分からない。灰色と茶色のトーンが全体を支配しており、落ち着いて静かだ。少し憂鬱にも見える。だからといって人間の寂しさや孤独を表現したと即断するのは早い。うなじを露わにした女性の髪は乱れ、ブラウスも広がっている。官能的な表現に見えるかもしれないが、タイトルが示すように女性は一日の日課を終え、あるいはその間に休憩を取っているところだ。
絵の中のモデルは画家の妻、イーダだ。母からの遺伝の精神不安のためか、憂鬱な眼差しと深い悲しみが、彼女の顔が描かれた肖像画で見ることができる。ハマスホイが子どもがいなかったことも、妻の後ろ姿を主に描いたのもまさにそのためのようだ。
正面の姿は人物の正体も表情も隠すことができない。そのため画家も妻も後ろ姿を好んだのだろう。ある意味、後ろ姿は正面の姿より正直だ。飾ることができないためだ。恐らく夫は妻が本当に休んでいる時を捉えて描いたのかもしれない。イーダの後姿が自然で美しく見える理由だ。100年以上前の絵が私たちに問いかけるようだ。あなたの後ろ姿はどうであるのかと。