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チャイコフスキー、音楽史上最も自虐的な音楽家

チャイコフスキー、音楽史上最も自虐的な音楽家

Posted February. 24, 2015 07:18,   

私はロシア革命前の200年以上を、ロシア帝国の首都だったサンクトペテルブルクに来ていました。21日には、マリンスキー劇場でバレー「アンナ・カレーニナ」を鑑賞しながら、この文化大国の奥深い伝統を実感しました。

トルストイの長編小説「アンナ・カレーニナ」は分かっているけどバレエのことはご存知でなかったと?今回見た作品は、ロシア現代作曲家の巨匠シチェドリンの音楽に、アレクセイ・ラトマンスキーが2004年に振り付けしたバレエ作品「アンナ・カレーニナ」です。作品そのものも素晴らしかったのですが、私は公演を見ながらチャイコフスキーの音楽にボリス・エイフマン振付の2005年作品「アンナ・カレーニナ」が頭の中で重なった。もちろんチャイコフスキーはアンナ・カレーニナという物語に合わせてバレエ曲を書いてはいません。交響曲「マンフレッド」、幻想序曲「ハムレッド」、交響曲第6番「悲愴」をはじめチャイコフスキーの名旋律の数々を編集したバレエです。

「悲愴」は知っていても「マンフレッド」や幻想序曲「ハムレッド」は、多くの方に馴染みのない曲でしょう。「マンフレッド」は英国の文豪バイロンの劇詩を交響曲に仕立てた作品で、「ハムレッド」はシェイクスピアの戯曲をもとに書いた管弦楽曲です。ところがマンフレッドから3年後にハムレッドを作曲しながら、チャイコフスキーは、ノートに「マンフレッドのように聞こえないように」と書き込んだそうです。そこまで意識して書いた作品なのですが、ハムレッドとマンフレッドの雰囲気は大変似ています。それもそのはずです。

ドンキホーテと比較される「優柔不断」な主人公ハムレッドのプロフィールは広く知られています。同時に、自らを信頼できない懐疑的な主人公でもあります。自身に確信が持てないままアルプスを彷徨うマンフレッドも「ハムレッド的」な人物なのです。

チャイコフスキー自身も音楽史上最も酷い自虐的な音楽家でした。彼の手紙と日記には自身の作品に対して「才能が無い」「退屈だ」「価値がない」などと自虐的な評価で埋め尽くされています。結局「マンフレッド」と「ハムレッド」のいずれもチャイコフスキー自身の姿を投影したものなのです。

酷い自虐と自己嫌悪は、彼を引っ張ってくれる動力でもありました。例えば「私は酷い怠け者なので、自分自身を縛り付けなければならない」として毎日の作業時間表を作成して作曲時間を強制しました。その結果として数多くの素晴らしい作品が生まれたのですから。チャイコフスキーは、自身の魂が疲弊するほどまでに追い込んで、人類に豊かな贈り物を残してくれたのかも知れませんね。