殷辰洙(ウン・ジンス)氏が、釜山(プサン)貯蓄銀行グループから億ウォン台の賄賂を受け取った容疑で取り調べを受けるようになると、監査院監査委員を辞任した。今回の事件は、殷氏個人の不正ではなく、側近中心の天下り人事から始まった権力絡みの事件だ。殷氏は07年の大統領選で李明博(イ・ミョンバク)候補の親衛グループだった「安国(アングル)フォーラム」の中核メンバーとして、「BBK株価操作事件」の対策チーム長として活躍した。李政府発足後は大統領職引継ぎ委員会の法務・行政分科諮問委員を務め、09年に監査院監査委員に任命され、野党から激しい攻撃を受けたことがある。
李大統領は一昨日、異例的に民情首席秘書官室を訪ねて「我々と関係のある人や出来事なら、なおさら徹底的に厳しく調査して、国民の前に疑惑を透明に解き明かさなければならない」と指示した。李大統領が厳重調査を指示したからと言って、側近中心の天下り人事の間違いがなくなるわけではない。公務員たちの不正腐敗を監視すべき監査委員に側近を配置する人事は自粛するべきだった。李大統領は今年初めに、民情首席秘書官を経験した鄭東基(チョン・ドンギ)氏を監査院長に内定しながら「監査院の独立性と中立性を守れる適任者だ」と持ち上げた。世論の批判を受けて与党執行部が鄭氏の辞退を要求すると、李大統領がしばらく不快感を示して与党執行部が戦々恐々としていたこともある。
現行の監査院法第15条は「監査委員は自身と関係のある事案には審議に参加できない」と定めている。殷氏は05年から2年間、釜山貯蓄銀行の顧問弁護士を勤めていたのに、10年初めにあった同銀行関連の審議に参加している。自ら特殊関係にあったことを告白し、同事件に関する職務の執行を断るべきだった。判事、検事、弁護士をすべて経験した殷氏は、自身とかかわりのある事件では自ら関与を排除する除斥制度があることを知らなかったはずがない。監査院側は、「自身と関係のある事案」についての解釈と適用が曖昧だとごまかしたが、これほどまでに内部検証システムがなかったこと自体が問題だ。
梁建(ヤン・ゴン)監査院長は昨日、「監査院の独立性と国民の信頼は、外部からの独立性の確保も重要だが、基本的には内部職員たちの確固とした態度と意志、努力が重要だ」と話した。ごもっともだが、監査院の独立性の確保が監査院長の意気込み一つで達成できるものではない。大統領府をはじめ権力機関の自粛が伴われてこそ可能になる。
歴代政府は、任期末に大統領周辺の大型不正事件が起き、政権の支持基盤の弱体化を加速化させ、国政混乱を招いた。李政府は大統領側近による汚職事件はなかったと自慢してきたが、殷氏事件が起きた。任期末が近づくほど大統領府など政権周辺にいる人は身の振り方に注意しなければ、過去の政府の過ちを繰り返すことになる






