
洪尚秀(ホン・サンス)監督には、独特の「味」がある。
「豚が井戸に落ちた日」「江原道の力」「オ!スジョン」など、氏の作品は「映画的」とは言えない。ドラマチックな事件と甘美な音楽、けんらんたるスクリーンなど、観客の感情を刺激する「誇張の甘味料」が欠けているからだ。
しかし氏の作品は、かめばかむほど飽きない、妙な味わいを感じさせる「乾パン」の味がする。
氏の新作「生活の発見」も、持ち味の「乾パン」の雰囲気の枠を超えない。むしろ、以前の作品より、一層味気なくなった。それでも「豚…」「江原道…」では死と殺人、といった「事件」があったし「オ!スジョン」では、人間の自己中心的な記憶に対するユーモアと、巧みに計算された構成の美学があった。
「生活…」は、多少顔が知られた舞台俳優のキョンス(キム・サンキョン)が、7日間の旅の中で経験する、短いロマンスを描いたもの。キョンスは、旅路でそそっかし屋の舞踊家ミョンスク(イェ・ジウォン)と、教授を夫に持つ人妻のソンヨン(チュ・サンミ)に次々に出会い、セックスをする。
荒っぽく表現するとしよう。この作品の主なシーンは、知らないところを訪ねて「何か」を期待する一人の男のガール「ハンティング」であり、セックスを媒介に擦れ違う一人の男と二人の女の「オーバーラップ」である。
キョンスは、映画への出演に挫折すると、気晴らしに春川(チュンチョン)に住む先輩のもとを訪ねる。キョンスは、ミョンスクが自分にひかれているのを知って、先輩が彼女を好きだと知りながらセックスをする。一夜限りの愛を置き去りにして、釜山(プサン)行きの汽車に乗ったキョンスは、汽車の中で出会ったソンヨンに惚れ、慶州(キョンジュ)で汽車を降りては、ソンヨンの周りをうろついた末、ついに彼女をものにする。
洪監督の、これまでの映画で見られるのと同じように「生活…」の登場人物たちは、愛していると主張しながらセックスをするが、そのシーンすら生活のように乾いている。愛とセックスは、一種の観察のための素材であって、観客の感情を引き寄せるためのものではないからだ。
「オ!スジョン」が、二人の男と一人の女の出会いを媒介にして、人間という存在の不正確な記憶を取り上げたとすると、「生活…」は、無意識のうちに繰り返される人間の模倣行為に焦点をあてている。
このために映画は、所々に計算済みのセリフとシーンが頻繁に見られる。キョンスが出会った二人の女は、一度も会ったことがないにもかかわらず、セックスの後に「私の中のあなた、あなたの中の私」という、同じような文を残している。
そうかと思うと、キョンスは「人間らしく生きるのは難しいけれど、怪物にはならないようにしよう」という、映画制作者のことばを真似て、違った状況の中で使ったりする。一言でいえば、この映画の上映時間2時間は、そっくり洪尚秀のものである。これでこそ、誰にも真似のできない洪尚秀の「力」であるが、客席との距離が縮まらない原因でもある。22日封切り。18歳以上観覧可。
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