
世界の有名な壁画を調査すると、共通点が一つある。それはこれらの壁画が景色のよい山にきれいな水が流れる景勝地にあるということだ。シベリアのバイカル湖やアムール川の絶壁、ノルウェーやオランダの景色のよい海岸の岩面などに原始人らの壁画が残されている。原始人の生活の糧を支える獲物の居所を占う祭儀場には神秘的な景色が適当だったからだろう。
韓国の壁画を代表する蔚山(ウルサン)の壁画は世界のどの壁画よりも美しく神秘的な場所にある。山谷が九つもあるという九浪(クラン)の絶景に位置しており、新羅(シルラ、前57〜後935)時代には花𩒐(ファラン、軍人)の訓練場でもあり、高麗(コリョ、918〜1392)時代には鄭夢周(チョン・モンジュ)の流配地で、朝鮮(チョソン、1392〜1910)時代には文筆家や画家の歌会の場所としてよく使われ、天才画家 鄭ソン(チョン・ソン)の名勝帳にも登場する名勝地だ。
このように原始人の祭儀の場所であり、歴史的にも名勝地だったこの世界的な壁画が今、危機に直面している。地方自治体が中心となって、この神秘的な祭儀場を観光名所に開発しようとしているためだ。これに対して壁画を守ろうとする市民団体と学界が強く反対し、緊張の度合いが増している。
蔚山市が壁画一帯を最小限度に整備すること自体は決して悪いとは言えない。いや、自然を最大限損なわないよう絶景を再び生き返らせる方向に整備すれば、積極的に歓迎すべきことだ。だが、狭い谷間に数十台もしくは数百台のバスと車が押し寄せて、数多くの観光客が神秘的な九つの谷間を埋める開発を急ぐとすれば、それは決してしてはいけない文化破壊になる。
上で述べたように、美しい絶景の神秘的な秘儀の場所が損なうことだけでも壁画はその生命を失うからだ。だから、周りの景色をそのまま維持し保存することだけが蔚山の壁画を保存する術である。
蔚山市は、このような壁画の性格を正しく認識し、学界や市民団体の意見を果敢に受け入れる必要がある。
実際に、壁画は原始人の生活をそのまま岩壁に描いた大叙事詩だ。鯨や鹿、イノシシや渡り鳥、そしてこれらの動物を捕まえたり狩りをする狩人や漁夫たちは高さ10mの絶壁に何重にも重ねて描いた大谷里(デコックリ)の壁画、鹿と魚など各種の動物の姿と菱形、円形など様々な絵文字のような幾何学模様などを高さ10mの絶壁いっぱいに描いた川前里(チョンジョンリ)壁画など二つの壁画が、絶景の盤亀台(バンクデ)を中心に上流1km、下流1km地点に位置している。
このように絶壁の岩肌いっぱいに数百もの絵を重ねて刻まれているケースは世界どこでもその類例を探すことが難しく、歴史的な遺跡として評価されている。このため世界の学界でも韓国のこの二つの壁画を特に注目しており、国家レベルで国宝として最高の待遇をしているのだ。
したがって、当局で大々的な開発整備計画を取り消して、次のような保存案を設けることが 蔚山の壁画を守る唯一の道である。
まず、壁画がある盤亀台の九浪の谷間には自然に作られた村と小道、 元曉(ウォンヒョ)大師の位蹐地であるバンゴ寺と祭室および祠、自然に似合うお店と最小限度の駐車施設1、2ヵ所だけを認め、その他の全地域は神秘な絶景の秘儀場として保存できるよう尽力すべきだ。
第二に、川前里壁画は洪水や風化作用を防ぐ最小限の保護装置をまず作らなければならない。
第三に、大谷里壁画は水位を低くし、遮断幕を設置して水害と冬害を防ぎ、いつでも観覧できる装置を設けるよう積極的に努力すべきだ。
また、文化財政策の責任を担当する文化財庁もただ手をこまねいていないで、蔚山市の開発整備を強く阻止し、壁画一帯を名勝地や遺跡地として指定し、遺跡地の保存に積極的に努力して、今後こうしたことが起きないよう万全を期するべきだ。
文明大(ムン・ミョンデ)東国大教授(仏教美術史)






