ソウルの面積の1.35倍に当たる慶尚北道英陽郡(キョンサンブクト・ヨンヤングン)に、専門医はたった1人しかいない。20年にわたり英陽病院の診療室を守ってきた、イ・サンヒョン英陽病院長だ。英陽郡の医療機関(歯科・韓方医院を除く)は、同病院を含めて診療所1か所と保健所の計3か所だけ。医師にかかるのが難しく、約20人が座れる待合室は常に満員だ。80歳を目前にした放射線技師が退職を先延ばしにしてくれているおかげで、かろうじてX線検査ができ、交代で救急当直に立つ公衆保健医2人がいるため、24時間、病院の灯は消えない。
最近、全羅北道長水郡(チョルラブクト・チャンスグン)で会ったパク・スンミン内科院長も、20年にわたり黙々と地域医療を支えてきた町医者だ。自宅のある全州(チョンジュ)から往復3時間かけ、週6日通勤する。平日は平均70~80人を診察するが、長水郡の人口が2万人を割り込もうとしており、いつまで病院を続けられるのか不安だという。
多くの医師がソウルなど首都圏勤務を望む中、2人はなぜ地方医療を選んだのか。高尚な職業倫理や使命感を想像したが、返ってきた答えは意外だった。
「私もそうだが、地方に残る町医者の半分は、公衆保健医時代に住民と築いた良い記憶があるからだ」(パク院長)「ソウルで研修を終え、公衆保健医としてこの病院に来て、そのまま腰を据えた。故郷も近くの浦項(ポハン)だ」(イ院長)
政府は地方を離れる医師を引き留めようと、懸命だ。早ければ来月初めに決まる来年度の医学部定員増の全員を、「地方10年義務勤務」を条件とする地域医師制で選抜する方針だ。2030年設立を目標とする医学専門大学院型の公共医療士官学校(仮称)や、新設地域医学部も、地域・必須医療分野の医師確保を狙う。
だが、地域医師制や公立医学部が医療過疎の根本解決策にならないことは、医療界も政府も承知している。医師が自発的に地方に残る誘因が乏しいため、政府支援を条件に地域・必須医療の担い手を選ぶ苦肉の策に過ぎない。李在明(イ・ジェミョン)大統領も昨年末、保健福祉部の業務報告で「地域医師や公共医師を補充しても、時間がたてばまたいなくなる。問題が生じた原因を取り除くべきだ」と話した。
英陽郡と長水郡の2人が地域に残った理由は、地域医療再生のヒントになり得る。医学教育と研修過程で、地域医療の経験を厚くすることだ。日本では、レジデントだけでなくフェローや医学部教授も、地域の病院・診療所への派遣を当然と受け止めている。
現行の医学教育と研修医(インターン、レジデント)の研修は、三次医療の大型病院、首都圏、地方中核都市に偏っている。医療の半分しか経験しないまま医師免許や専門医資格を得ているのが実情だ。「本当の医師ではなく、医療技術者を育てている」との自嘲が、医療界から聞こえる所以である。
レジデント研修4年(内・外科など一部は3年)のうち、せめて6か月でも医療過疎地を経験する制度へ転換してはどうか。現役入隊の増加で年々減る公衆保健医の代替にもなる。年間約3000人の専攻医が半年でも草の根の地域医療に触れれば、その一部は将来、地域・公共医療に身を投じる医師へ育つ可能性がある。
朴星民 min@donga.com
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