「桜」という言葉は、人によってそれぞれ違う意味で咲く。桜並木を一緒に歩いたあの人は、今あなたのそばにいるのか。散りゆく桜をつかもうとしたあの頃を、今でも覚えているだろうか。桜を見て、ちょっと戸惑ってしまうのは、ただきれいだからではない。花が咲くと10年前、20年前の時間が同時に戻ってくる。あの頃の私と、人と、心も戻ってくる。もしかしたら木についた花房の数より花に込められた意味の数の方が多いかもしれない。
この詩人にとって桜は何だろうか。詩人は桜が散ったので「今年の悲しみ」は終わったという。去年も「去年の桜」と「去年の悲しみ」があったということだ。来年もまた「来年の悲しみ」を悲しむという話でもある。桜が散っている間、詩人はずっと悲しかった。一輪ずつ散っていく桜にはどんな思い出があって、悲しかったのか知りたい。おそらく、そこには詩人が愛していたすべてが含まれていただろう。花一つに夢と、花一つに青春と、花一つに思い出が、つまり花一つひとつに懐かしいことすべたが込められていただろう。去っていたすべての大切なことにこの詩を伝えたい。