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仔牛の肉

Posted May. 31, 2023 08:17,   

Updated May. 31, 2023 08:17

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フランチェスコ・ロージ監督の「遙かなる帰郷」(1996年)は、アウシュビッツの生存者であるプリーモ・レーヴィの回顧録『休戦』をもとに作られた映画だ。収容所から解放されても故郷のイタリアに帰れず、8ヵ月間もロシア、ポーランド、ウクライナ、ベラルーシをさまようユダヤ人たちの苦難の旅が繰り広げられる。彼らにとっては戦争が終わっても終わったわけではない。だから「休戦」なのだ。

一瞬だが、とても切ないシーンがある。他国を放浪していたユダヤ人たちはある日、子牛をこっそり捕まえて肉を配り始める。すると一人の男がある女性を突き放す。「お前はナチスと一緒に飯を食べた。消えろ。俺たちから離れろ」。彼女が収容所でナチスの兵士たちの慰み者だったことを問題視したのだ。

古今東西を問わず、他者に対する野蛮な暴力の歴史の中で、女性が性的に蹂躙されなかった例はほとんどなかった。すべての植民地の歴史は女性に対する暴力の歴史そのものだった。彼女たちは同情の対象であるべきだが、現実はそうではなかった。彼女たちは同族から穢れた存在として扱われ、自らを恥ずかしく思うことを余儀なくされた。だから息を殺して隠れて生きなければならなかった。ホロコーストの犠牲者も例外ではなかったようだ。映画でユダヤ人男性がユダヤ人女性を突き飛ばしたのはそのためだ。ところが、そこで驚くべきことが起こる。レーヴィが女性を抱きしめてこう言う。

「アウシュビッツで彼らが私たちにした最悪のことは、私たちにパンを与えなかったことでも、私たちを拷問したことでも、私たちを殺したことでもなかった。最悪のことは、私たちの魂と思いやりの力を押しつぶし、その空白を憎しみで満たしたことだ。互いを憎むように」

だから、傷ついた人同士、憎しみ合うのではなく、思いやりの目で見ようということだ。ロージ監督が原作を映画のストーリーに合わせて変形したため、実際にそのようなことがあったかどうかは定かではないが、とにかくそのシーンは、トラウマによって失われた人間性と思いやりの心を取り戻すことがいかに大切かを静かに説得する。