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一線を越えた愛

Posted June. 16, 2022 09:44,   

Updated June. 16, 2022 09:44

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守るべき道徳や規範、度を越えた時、「一線を越える」と言う。オーギュスト・ロダンの傑作「接吻」は、恋人の愛を描写した最も美しい彫刻に数えられるが、実は一線を越えた愛を表現している。

抱き合って口づけをするこの官能的な恋人像は、当初はロダンが数年間精魂込めて制作した青銅彫刻「地獄の門」の一部だった。1880年にフランス政府がパリに建てる美術館に展示するために依頼したのだが、美術館の計画が頓挫した。ロダンは、ダンテの『新曲』の中の「地獄篇」からインスピレーションを得た。彫刻のモデルは、『神曲』に登場する恋人のフランチェスカ・ダ・リミニとパオロ・マラテスタ。彼らが地獄に行った理由は、一線を越えて愛し合ったためだ。彫刻をよく見ると、男は手に1冊の本を持っている。2人は今、アーサー王伝説に出てくる王妃グゥネヴィアと騎士ランスロットの話を読んで口づけをした。王妃と騎士の不倫話は彼らに勇気を出させたのかもしれない。フランチェスカが愛した男が夫の弟だったためだ。2人が愛し合い、初めて口づけをした瞬間、夫に見つかり2人とも殺される。妻が不倫したことで殺人までしたのだから、夫も一線を越えたのは同じことだ。叶わぬ愛に本能的に惹かれたのだろうか。この彫刻像に心酔していた頃、ロダンは息子まで生んだローズ・ブーレを置いて19歳の美しいカミーユ・クローデルと恋に落ちた。彫刻に天性の才能を持つカミーユと、彫刻家でありモデルとして、芸術家仲間であり恋人として情熱的な時間を過ごした。

ロダンは運が良かった。いくら浮気をしてもローズは生涯、去ることはなかった。パオロとフランチェスカが共に地獄に落ちたのとは違って、ロダンはカミーユと別れた後も彫刻家として名声を築いた。ただし、カミーユだけが、才能をすべて花咲かせることなく精神病院に入れられ、30年間、地獄のような余生を送った。一線を越えた愛の代価は、不公平にも彼女だけに与えられた。