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隠された身分

Posted April. 07, 2022 08:55,   

Updated April. 07, 2022 08:55

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黒いドレスを着た少女が、ふわふわのアームチェアに座っている。背景も椅子もすべて赤色で、強烈な印象を与える。白い肌の少女の顔は無表情だが、画面の外を眺める目つきは安らかに見える。いったいこの少女は誰だろうか。

ウィリアム・チェイスは、19世紀の米国の代表的な印象主義画家で献身的な教育者だった。ニューヨークで修学後、ドイツのミュンヘンで画家として活動し、初めて名声を得た。1878年にニューヨークに戻り、有名画家たちが集まって住んでいた10番街に作業室を設けた。彼は、人物や風景、静物、パステル、水彩画など、ほぼすべての分野で優れていたが、名士の肖像画家として名を馳せた。当代のニューヨークの主要人物たちが、彼のモデルとなった。ところが、この絵の中のモデルは、例外的に保育園の孤児の少女だ。

当時、米国は非常に若い国だったので、福祉制度は皆無だった。貧しい親たちが、工場や埠頭で1日14時間ずつ働く間、子どもたちは徹底的に放置された。これに対する対応として、収容所概念の保育園ができた。保育園児のうち、10〜20%だけが本当の孤児で、大半は貧困のために捨てられたケースだった。保育園の施設は劣悪で、体罰や暴力が横行した。教育者だったチェイスは、隣の保育園で発見したこの少女に同情したのだろう。ひょっとしたら、孤児の社会的問題を提起したかったのかもしれない。この絵は、完成した1884年春に「幼い孤児」という直接的なタイトルをつけ、米美術家協会の展示会で初めて公開され、反響を呼んだ。しかし、画家は、同年6月ベルギーで開かれた「20人会」の展示に参加し、タイトルを突然「アリスチェイス」に変えた。

チェイスはなぜ、ヨーロッパの進歩的なグループ展に出品しながら、中立的なタイトルを選んだのだろうか? おそらく社会的論争の種になるに違いないモデルの身分を意図的に隠すことで、観客がひたすら絵そのものに集中することを望んだようだ。孤児に対する偏見なく、赤と黒が調和した絵の中の重要な人物として少女を見つめることを望んだのだ。