Go to contents

「Forオンマ」

Posted August. 04, 2021 08:16,   

Updated August. 04, 2021 08:16

한국어

母親の最後の姿が娘の頭から離れない。50代半ばで胃癌で亡くなった母親の白い舌、赤紫色の床ずれ、伸びた髪、くもった目。良い記憶も多いが、良くない記憶だけが浮かぶので、娘は苦しむ。高額を払ってニューヨークで精神科治療まで受けるが効果がない。父親まで母親が亡くなった後、遠くに行っていない。

何も、誰も助けてくれない。それで始めたのが料理だ。娘は、ノートブックをキッチンに持って来て、韓国人ユーチューバーを見て料理を始める。材料を手入れし、調味料を準備して料理する。それが料理と関連した母親との良い思い出を浮かび上がらせる。大根のキムチと白菜のキムチも漬けてみたい。韓国食材のマートに行って材料を買い、ユーチューブを見てキムチを漬け始める。キムチは2週間熟成させると味が深まる。母親がいれば自慢したい。母親はキムチが好きでない人は愛するなとまで言った。

今では彼女は1ヵ月に1度キムチを漬ける。多くはそのまま食べ、時にはチゲを作ったり、チヂミを作ったり、知人に分けたりする。それと共に苦しい記憶が退き、良い記憶が浮かび上がる。キムチを漬けて食べることが精神科医を訪ねるより良い治療法だったのだ。彼女はその経験を「Hマートで泣く」と題する感動的な英語の散文集で公開した。韓国人の母親と米国人の父親の間に生まれ、「ジャパニーズ・ブレックファスト」という名前のインディーズロックバンドを作り、母親の国、韓国に来て公演したミュージシャン、ミシェル・ザウナー。彼女はキムチを漬けて料理をし、苦しい記憶をはね除け、母親の死を悼むことができた。7年経ったが、韓国マートに行けば、母親のことを思い出し、いつも泣く。だからだろうか、中表紙に書かれた「Forオンマ」という献詞を見て胸がジーンとする。オンマ。

文学評論家・全北大学碩座教授