米国食品医薬局(FDA)が、顔のシワを消すために使われるボトックスを整形手術用に承認した02年。映画「ムーラン・ルージュ」の監督バズ・ラーマンが、ボトックス注射を受けてつるつるになった女優を出演陣からはずしたという噂が広がった。顔面の筋肉がこわばって、喜怒哀楽の表現がうまくできなくなったからだったという。もっときれいになりたいという女性としての欲望と俳優という職業が衝突したわけだ。もちろん、さらに良い演技をするためにボトックス注射を受けたのかもしれないが。
◆ミュージカル「ミスサイゴン」で重みのある役割を受け持った俳優・金ソンギ(45)さんが練習の途中で倒れた。高血圧による脳出血だ。舞台上の緊張の中で、感情の極端を行き来する演劇俳優の中には特に高血圧という「職業病」を持っている人が多い。高血圧の薬を飲むと、演技に没入しにくいとして、薬を飲まない俳優も少なくない。交感神経を抑制し血圧を落として楽にさせてくれる高血圧薬が、演技にはかえって毒だということだ。俳優としての熾烈(しれつ)な職業精神が、健康に生きたいという人間の普遍的な欲望を抑えた場合だ。
◆「どうして私なんだ。どうして私でなければならないのか」。演劇「エクウス」の最後の場面で、精神科医のダイサートは重々しく問う。自分の意志ではどうにもできない運命に対する苦悩の表現だ。04年、ダイサート役で舞台に立った金フンギ(58)さんも公演後、楽屋で脳出血で倒れた。人より4時間早く来て1日7〜8時間ずつ練習するほど情熱的だった彼だ。「どうして私なんだ」と言いたいほど苦しい時も、彼らは舞台で倒れるという覚悟で観客に感動を与えてくれてきた。
◆俳優の「俳」の字が「人間(人)ではない(非)」という意味の組み合わせだからではないだろう。職業を持っている全ての人に命をかけて働けと言うわけにもいかない。ただ、「人でない人」も自分の仕事をより上手にするために服用する薬まで止めるのに、国民の命を牛耳ることをあまりにも軽々しく扱っている人がいて、われわれを憂鬱(ゆううつ)にさせる。「税金の爆弾、まだまだだ」、「世宗(セジョン)大王が来ても不可能だ」と言っている政治舞台の人だ。
金順徳(キム・スンドク)論説委員 yuri@donga.com






