
春の干ばつも2ヵ月目にさしかかったある日、車を飛ばして太白(テべック)市に向かう途中、旌善市小金剛(ジョンソンシ・ソグムガン)の東大川(トンデチョン)沿いを歩いた。日照りで渓谷の水も干上がってしまい、小川の辺り一面は白い石ばかり転がっていた。それでも幸いなことは、畦になみなみと水を満たした水田のなかで田植機を操りながらせわしく田植えをしていた農民の姿、そして日一日と乾く一方の大地を新緑の緑で覆い、農民の安らぐ木陰を作ってくれた山河の草や木々。日ごろ、朝晩と何気なく無駄使いした水のことを思うと、恥ずかしさで顔が赤らんでくる。
日照りで、水の大切さを改めて感じつつ江の源流を求めて出かけた生態旅行。その目的地は、江原道(カンウォンド)道太白市の「三水嶺(サムスリョン)」。ピジェ峠(標高920m)とその周辺の剣龍沼(コンリョンソ)およびミイン(美人)の滝だ。
三水とは、韓半島の南部を潤す三つの江のこと。西海(ソヘ)に流れ出る漢江(ハンガン)、南海(ナムへ)に流れる洛東江(ナットンガン)、さらに東海(トンへ)に流れ出る五十川(オシップチョン)をいう。ところで、この三つの江の源流が不思議なことに何れも太白の近くで始まっているのだ。三水の源が宿るところは何処だろうか。二つの山脈が、もっと正確に言えば白頭大幹(ベットゥデガン)と洛東正脈(ナクトンジョンメク)とが「Y」字型で出会ってできた渓谷。
三水嶺のピジェ峠は、正にこの三つの渓谷の中心であり、二つの山脈の交差点にあたる。従って理論的に言えば、ピジェ峠に落ちた雨粒は三つに分かれて、それぞれ別の渓谷に流れることになる。さらにその水は、渓谷のどこかで湧き出るか又は小川となって川の源流となるのだが、それがクムデボン峰の山麓にある剣龍沼(漢江)、太白の黄池(ファンジ、洛東江)、そして洛東正脈の太白に近い山間から小川が墜落する形状の、トンリ(里)のミインの滝(五十川)だ。何れも車で15分以内の所に位置している。
ピジェ峠は、三陟(サムチョク)と太白の二つの市を結ぶ35番国道上の峠のこと。尾根には「三水嶺ピジェ峠」と書かれた案内札と三水嶺の石塔があるため、簡単に探せる。小さな駐車場と商店もある。ところが、ここで三水の源流を見出すのは不可能だった。剣龍沼の方に方向を定めた。アンチャン竹の村を過ぎて森の中に入ると、すばらしい林道が広がっている。700mほど進むと、飛び石の橋が目に入った。漢江最北端の石橋とでもいうべきだろうか。
飛び石の橋を渡って剣龍沼までの600mの道のりは、すらっと伸びた「のっぽ」のチョウセンカラマツ(マツ科の落葉高木)が空を覆う、ひっそりとした森の小道が続いた。眩しい陽射しが照付ける真昼にも拘らず、まるでクーラーを付けたように涼しい。己も緑色に染まってしまいそうな濃い緑の木陰、さらさらと岩の間を流れる冷え切った小川のせいだろう。天恵の「冷房渓谷」の中で一番得をしているのは野の花のような気がする。道端の草むらを白や黄色、さらには薄紫の花々で彩るか弱い野の花。適当に撮っても傑作ができそうな素敵な場所だ。
チョウセンカラマツの森が終わるころ、こぢんまりとした「剣龍亭」が現れ、そこから左に伸びた傾斜岩をのぼると剣龍沼に出る。僅か20mあまり。水先を探すと、岩の溝の中にあった。
沼を後にした水は、薄緑色の苔に覆われた岩の溝(幅30cm、深さ50cm前後)を伝い、高さ2mにざっと12段もある階段状の岩の溝に沿って滝のごとく流れていた。美しい水石を眺める気持ちがした。「大した物ですね。この水で岩に溝ができるとは・・・。どれくらいかかったのでしょう」。同行のイ・ジョンスンさん(スンウ旅行社社長)の質問。暫し頭の中で時を遡ってみる。「1万年、10万年、それとももっと・・・」。
水先に沿って岩の上に立つと、源泉が見えてきた。渓谷の突き当たりにある「山奥の小泉」(周囲20cm)である。森の茂みに覆われた渓谷の中の小さな空間、池の中にある岩の隙間の小さな穴から湧き出るこの湧き水が、長々と514.4kmを流れ、ついに江華(カンファ)湾から西海に流れ出る漢江の源であった。手を漬けてみた。僅かに20秒も我慢できないほどに冷たかった。両手を合わせて湧き水を汲んでは喉を潤した。「漢江の水を一気に飲み干す気分ですね」。イさんのいう通りだった。湧き水は神秘的であった。水の味は勿論のこと、さらには水温と湧出る水量が常に変わらず一定値を保っているというのもそうだった。
剣龍沼を後にし、太白市内を経てトンリの「ミインの滝」に足を伸ばした。五十川は、源流が定かでないうえに、そうと推定される場所に接近する事さえままならないため、ミインの滝を「源流のシンボル」程度にしている。38番国道上の太白、三陟の両市の境を過ぎて三陟方面に1.7km程走ると、左手にミインの滝の案内札が見えてきた。駐車場から滝までは500mほど。
渓谷の下に向かってできた林道の中ほどから開いている森の隙間から渓谷の中が目に入った。紅い岩の崖とともに右手には、花嫁の白いドレスが切立った岩の崖にそっと掛かっては風になびく姿は、なるほど美人そのものである。
龍沼(ヨンソ・滝の水が溜まった池)の周りはどこも岩だらけ。その隙間に咲く白い野の花。5月の日中の渓谷の中は、自然のままの音しか聞こえない。さらには、風になびく木の葉の音、崖を流れ落ちる水の音、小鳥のさえずり・・・。渓谷と滝が奏でる「ミインの滝のアンサンブル」は、つくづく素敵だった。
▲生態旅行〓スンウ旅行社(02—720—8311)は、剣龍沼とミインの滝をトラッキングする生態旅行(無泊2日)商品を販売中。週末(2日、9日:5万3000ウォン)と公休日(6日:4万8000ウォン)出発。
早朝、剣龍沼トラッキング後「ノワジップ」で食事。6日出発のコースは、旌善市場にも立ち寄る。
趙誠夏 summer@donga.com






