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日本はどうやって「所得主導成長論」の悲劇を回避できたか

日本はどうやって「所得主導成長論」の悲劇を回避できたか

Posted March. 15, 2024 08:33,   

Updated March. 15, 2024 08:33

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大企業の労使賃金交渉が真っ最中の日本経済界で、最近最も多く聞こえてくる単語は「満額回答」だ。韓国にはない漢字語だ。労組が出した賃金引き上げの要求案を、会社側が100%受け入れるという意味だ。労組の要求案を一銭も削らないので、交渉と言えることもない。大企業の賃金交渉を「春闘」と呼ぶが、「戦う」の字をつけるのがおかしいほど、平和で和気あいあいとしている。

史上初の日経指数4万円台の突破で、「失われた30年」の鉄の蓋を開けた日本は、今や約30年間凍りついていた王の厚い氷を破っている。主要大手企業の賃金上昇率を見れば、景気回復という言葉が足りないほどだ。日本製鉄は14.2%、神戸製鋼は12.8%、イオンは6.4%、パナソニックは5.5%。日本金属労組傘下企業の85%以上が労組の要求案をそのまま受け入れるか、むしろそれ以上に引き上げた。

日本企業の賃金引き上げは、一夜にしてなされたわけではない。2012年末に政権を握った安倍晋三元首相がその翌年、3本の矢(金融緩和、財政拡大、成長戦略)を柱にした経済政策「アベノミクス」にさかのぼる。政府と中央銀行が資金を供給して企業に投資を増やし、賃金を引き上げるよう要請した。2010年代から登場したいわゆる「官製春闘」だ。

それでも、賃金引上げ率は毎年2%をなかなか越えられなかった。中小企業はさらに低かった。一度落ちたデフレ(景気低迷の中での物価下落)の沼がどれほど深いかをうかがわせた。にもかかわらず、日本政府は、少なくとも企業の腕を捻ることはなかった。首相が直接出て、賃金引き上げを要請したが、答えない企業を無理に圧迫はしなかった。大手と中小企業との賃金格差が広がるとして、最低賃金を10%以上無理に引き上げることも、政策方向性を無理に変えることもなかった。

なかなか成果がなかったにもかかわらず、日本政府は毎年、引き上げムードづくりに力を入れ、企業しやすい環境づくりに乗り出した。「首相が言ったからといって賃金が上がるか」という皮肉にも屈しなかった。東京都心の随所の容積率や高度制限、建ぺい率などの規制を緩和し、建設景気が蘇った。自国企業はもちろん、台湾のTSMCのような企業にも数兆ウォン台の補助金を与え、日本列島全体に半導体工場への投資熱気を吹き込んだ。円安の長期化による輸出競争力の強化は、企業業績の改善へとつながった。そのように10年を粘り強くしがみつくと、株価が上がり賃金引き上げが本格化した。

日本が資金を供給し規制を緩和する時、韓国は最低賃金の引き上げと大企業の規制を選んだ。2018年は16.4%、2019年は10.9%を引き上げ。所得主導成長論を根拠に、最低賃金を上げた当時、「このまま韓国の最低賃金が日本を越えてしまえば、小規模自営業者は打撃を受けるだろう」という主張は無視された。その結果、韓国は経済危機でもないのに働き口の増加幅が10万件を下回る「雇用ショック」を体験した。半導体工場の増設は、水や電気供給の許認可を決める地方自治体の規制に阻まれる。住民の苦情や地域の宿願、選挙公約などを理由に、適法な許可さえ与えない。

10年以上、「デフレ脱出」の政策目標に向かって走っていった日本は、ついに「30年ぶりの最大賃金引き上げ」という成績表を受け取った。近い将来「マイナス金利解除」を発表する可能性も高い。乾いたタオルが破れるまで絞り出してばかりいた日本経済の雰囲気は、このように変わりつつある。隣国はあんなふうに走っているのに、私たちは選挙を控えても「経済を立て直す」というスローガンさえなかなか目にできない。