
警察は、いわゆる「自殺幇助(ほうじょ)」を目的に海外へ出国しようとした60代の男性について、航空機の離陸を遅らせて出国を阻止し、家族に引き渡した。自殺幇助とは、医師の支援のもと、患者本人が自ら薬物を投与して死に至る方式を指す。
仁川(インチョン)国際空港警察団によると、9日午前9時30分ごろ、60代の男性の家族から「父が『尊厳死』のために出国しようとしているようだ。止めてほしい」とする112番通報が寄せられた。尊厳死とは、医師が患者に直接薬物を投与したり、延命治療を中止したりして死に至らせる方式を指し、国内ではこのうち後者のみが認められている。
家族によると、肺線維症を患っている男性は同日、金海(キムへ)空港から出発し、仁川空港で乗り継いだ後、正午12時5分発のフランス・パリ行き航空便に搭乗する予定だった。肺線維症とは、肺組織が硬化して呼吸障害を引き起こす慢性呼吸器疾患で、少し動いただけでも息切れが生じ、日常生活が困難になるほか、慢性的な咳や強い疲労感、睡眠障害に悩まされるケースが多い。
通報を受けた警察は、家族から連絡先を受け取り、午前10時ごろ、仁川空港の搭乗ゲート前で男性と接触した。男性が「体調が悪いので、最後に旅行に行こうと思っている」と話したため、警察はやむを得ずその場で男性を引き留めることができなかった。
しかし午前11時50分ごろ、家族から「『申し訳ない』という内容の遺書のような手紙が見つかった」との追加連絡が入り、状況が一変した。この時点で離陸まで約15分となっており、男性はすでに機内に搭乗していた。
警察は航空機の離陸を一時遅らせ、男性を機内から降ろしたうえで説得に当たった。警察関係者は「遺書とみられる手紙が確認された以上、単なる旅行ではなく、自ら命を絶つ可能性が高い状況だと判断した」とし、「自殺予防と生命保護は警察の基本的な責務」と説明した。さらに「同年代の警察官が、家族がどれほど心配しているかを中心に話を続け、帰宅を説得した」と付け加えた。男性は最終的に警察の説得を受け入れ、出国を断念した。
警察の調べでは、男性はパリを経由してスイスに渡航する計画だったことが分かった。スイスでは、医師が直接薬物を投与する「尊厳死」は違法とされている一方、医師の支援を受けて患者本人が自ら薬物を投与する「自殺幇助」は認められている。これらの規定は外国人にも適用される
男性は警察との面談で、「自ら死を選ぶことも私の権利ではないのか」と話したという。警察関係者は「出国を阻止してほしいという家族の要請と、自殺の危険を示す兆候を総合的に考慮した」とした上で、「男性が金海空港に戻るところまで確認し、所轄警察と連携して、空港に来ていた家族に無事引き渡した」と話した。
仁川=コン・スンベ記者 ksb@donga.com






