経済学者ジョン・メイナード・ケインズは、重要な意思決定の瞬間には、理性的、論理的計算だけでは置き換えられない本能や感情の領域が大きな影響を与えるとし、これを「野性的衝動(Animal Spirits)」という用語で整理した。
今年の米国プロ野球メジャーリーグ(MLB)のポストシーズンでは、「野性的衝動」を象徴する場面が見られた。MLBに少しでも関心のある人なら、ソーシャルメディアのアルゴリズムで目にしたことがあるかもしれない「マッド・マックス(Mad Max)」というタイトルの動画だ。
舞台となったのは、トロント・ブルージェイズとシアトル・マリナーズが対戦したアメリカンリーグ優勝決定シリーズ(CS・7戦4勝制)の第4戦である。ブルージェイズの先発でベテラン投手のマックス・シャーザー(41)は、5-1でリードした5回2アウト一塁の場面で、ジョン・シュナイダー監督(45)がマウンドに向かうと、怒りをむき出しにして「F」の暴言を交え、大声で「どけ」と叫んだ。「続けて投げる」と叫ぶシャーザーに対し、シュナイダー監督は「そうしろ」と言って素直に立ち去った。
次の打者を三振で打ち取りイニングを終えたシャーザーは、6回にもマウンドに上がり、ア・リーグ本塁打王カル・ローリー(マリナーズ)を含むアウトカウント2つを追加で取った後、マウンドを降りた。ブルージェイズが8-2で勝利し、5回と2/3を投げて2失点に抑えたシャーザーが勝利投手となった。
試合後、シュナイダー監督は「シャーザーに殺されるかと思った」と笑い、「普通なら数字や戦略、予測、人間などを総合して判断するが、その中で人間を信じた。(シャーザーが叫ぶ)瞬間、今年シャーザーと交わした全ての会話が頭をよぎった。シャーザーはやり遂げると信じた」と語った。
シュナイダー監督は「シャーザーがああやって叫ぶのをシーズン中ずっと待っていた。素晴らしかった」とも語った。もちろん、彼が待っていたのは理性を失い我を忘れたシャーザーではない。監督が期待した「マッド・マックス」は、絶体絶命の瞬間に「俺を変えられるのか?」と監督を睨みつけるほどの覚悟を持ったシャーザーだった。その日のシュナイダー監督の判断には、単なる瞬間の感情ではなく、シャーザーと共に過ごした今シーズン全体の過程が反映されていた。
野球は基本的に「確率ゲーム」である。しかし、毎年秋のPSでは、レギュラーシーズンのデータでは説明しきれない状況がしばしば発生する。いわゆる「波乱の呼ぶ選手」によってシリーズの行方が左右されることもある。監督がよく言う「流れ」や「勢い」といったものも、理性や論理では簡単に説明できない要素である。
この日勝利したブルージェイズは、2敗で始まったシリーズを2勝2敗の振り出しに戻し、最終的に4勝3敗で32年ぶりにワールドシリーズ(WS)にコマを進めた。しかしケインズは、野性的衝動も堅固な理性が土台にあって初めて経済に活力をもたらすと強調している。過度な期待はバブルにつながり、バブルがはじけたときに訪れるのは恐慌である。
秋の野球も同様だ。後がない舞台で、監督は理性と野性的衝動の間で最適なバランスを見つけなければならない。この冒険で成功した者が優勝カップを手にする。しかし、欲や恐れに支配されると理性的判断すら曇る。レギュラーシーズンとはまた異なる、秋の野球ならではの魅力である。
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